草笛光子×真矢ミキ 映画で親子役を演じて「愛情なんて大層なもの、簡単にはあげられないわよ」「いまも草笛さんのことを『お母さん』と呼びたくなってしまいます」
◆「90歳のリアル」を見てほしい 真矢 私は現場が本当に楽しかったので、出番がない日にも撮影を見に行きました。草笛さんはチョコレートがお好きと伺っていたから、喜ぶ美しいお顔見たさにチョコレートをお持ちしたりして。 草笛 いただけるものは、ありがたくいただくの。あら、そういえば今日は?(笑) 真矢 手ぶらできちゃいました。すみません(笑)。撮影期間が長かったし、主演の草笛さんはセリフの量も膨大だったので、お疲れになったんじゃないでしょうか。 草笛 そう? そんなに喋ってない気がするけど。私は楽だったわよ。 真矢 えーっ!(……と、周囲を見る。首を横に振る草笛さんのマネージャーさん) 草笛 あなたのような丈夫そうなしっかりした人がそばにいてくれたから、安心できたの。 真矢 丈夫そうって(笑)。私たちはワンシーン、ワンシーン、命がけで佐藤愛子さんになりきっている草笛さんの姿に、ずっと鼓舞されていました。 草笛 本人としては、そんなに苦労したつもりはないの。つまりそれほど苦労しなくても佐藤さんに近づける気がしたから。佐藤さんからも「あなたが私をやるのも、悪くないわね」と言っていただけたし、そのまんまの私でいこうっていう気持ちになれた。
真矢 すごいなあと思ったのは、「90歳のリアル」を表現してらっしゃるところです。私、試写を見て冒頭から感動してしまって。読者の皆さんにもぜひ最初から気を抜かずにご覧いただきたいんですけど、朝の起床シーンから、ひとつひとつがリアルな演技なんですよ。 起き上がって、ベッドに腰かけて、髪を結んで。肩にかけたカーディガンがするっと落ちるところなんか……。 草笛 あれは自然に落っこっちゃったのよ。 真矢 それも含めて、素晴らしいんです。そうそう、リアルで言うなら、朝、ポストまで新聞を取りに行く時に、門に頭をぶつけるところはつい笑ってしまいますよね。 草笛 「危ないから頭をぶつけないようにしてください」ってスタッフがシールまで貼ってくれたのに、何度やってもぶつけちゃうのよ。痛かったわよー。 真矢 草笛さん、現場に入る時には必ず「はぁ、今日も撮るのー?」って現場を沸かしてらっしゃいましたね。でもカチンコが鳴った途端、パッとスイッチが入る。爽子ちゃんは草笛さんのことを、おばあさまの藤間紫さんと重なって見える、と言っていました。 草笛 どんなところだろう? 真矢 覚悟を持って生きている人の雰囲気、というのかな。いつも凜として前を向いている、そんなかっこよさが似ているって。 草笛 私はともかく紫さんは本当に素敵な方でしたね。舞台やドラマでご一緒させていただいたこともあるの。なにげない仕草に、いつもハッとさせられたわね。 (構成=篠藤ゆり、撮影=天日恵美子)
草笛光子,真矢ミキ
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