名前を変えてやり過ごす日銀、ふんわり路線はこれからも続くのか?
Q:出口が一段と遠のくことになるが、なぜそのような措置を講じたのか?
A:日銀にとっての懸念事項は、長国の買入柔軟化が量的緩和の縮小とみなされることだったとみられる。日銀は1月29日のマイナス金利導入以降、「量」から「金利」へ軸足を移してきたが、それが市場に「量」を軽視したと解釈され、意図せぬテーパリング観測が台頭することを未然に防止する狙いがあったのだろう。また、会合に参加する9名の意見調整、すなわちマネタリーベースを重視する岩田副総裁と原田委員の主張を盛り込んだ方が、政策委員の意見対立が防げるという事情があったかもしれない。
Q:事実上の物価目標引き上げはプラスの効果があるのか?
A:今回のフォワードガイダンス強化は、8月にウイリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁が提起した考え方に近いとの印象を受ける。同総裁は、中央銀行が物価目標を引き上げることで人々の予想インフレ率を上方にアンカー(固定)できれば、それが実質金利低下を通じて景気刺激的な効果を生み出すかもしれないという議論を展開していた。総括的検証では、この政策案の重要な要素である「均衡実質金利」が随所にみられた。※筆者の見解では、この考え方の最大の弱点は、中央銀行のインフレターゲットと人々の予想インフレ率に関係があることを前提にしているところ。あまり現実的な印象は受けない。
Q:今後の追加緩和手段は?
A:今回の声明文には「追加緩和手段」という項目が設けられていたので抜粋する(<斜体部分>)。 <具体的な追加緩和の手段としては、「イールドカーブ・コントロール」の2つの要素である(1)短期政策金利の引き下げと(2)短期金利操作目標の引き下げを行うほか、「量的・質的金融緩和」以来実施してきた(3)資産買入れの拡大が考えられる。また、状況に応じて、(4)マネタリーベース拡大ヘペースの加速を手段とすることもある> この文章を素直に解釈すると(1)~(4)の順に追加緩和が予想される。上述のとおり、日銀は「量」から「金利」に軸足を移していることから、追加緩和の必要性が生じた場合は(1)(2)が優先され、(3)は最終手段になると予想される。 しかしながら「量の限界」「金利の副作用」という問題が残存する限り、追加緩和が難しい状況に変わりはない。そもそも今回の政策変更の背景に、行き過ぎた金利低下があったことを踏まえると、再びそうした問題を引き起こすおそれのある(1)(2)が実行される可能性は低い。