名前を変えてやり過ごす日銀、ふんわり路線はこれからも続くのか?
Q: 今後、物議を醸しそうなポイントは?
A:リーマンショック、欧州債務問題において米国の中央銀行であるFRBや、欧州中央銀行(ECB)、英中央銀行(BOE)がゼロ金利制約(金利はゼロ以下にすることができないというそれまでの常識)に直面する下、景気刺激ツールは短期金利(政策金利)の調節から長期金利の抑制にシフトしてきた。しかしながら、短期金利はピンポイントでターゲットの水準が示されるのに対して、長期金利については明確なターゲットが示されることはなかった。 1940年代の米国で戦費調達のため長期金利ペッグが採用されていた経験があるにせよ、イールドカーブコントロールは戦後の主要国で初めて採用される政策であるため、その運営が難しそうだ。まず、問題となりそうなのが、10年金利の政策目標からのかい離だ。声明文では10年金利の誘導目標が0%「程度」とされているが、この“程度問題”が物議を醸すだろう。 たとえば、翌日物金利の25bpの引き上げは、直ちに金融引き締め策として認識されるが、通常の市場において10年金利の25bpの上下はその時々の市場変動によっていくらでも起こり得る。たとえば、米債市場で10年金利が100bp上昇した場合、本邦10年金利にも相当な上昇圧力が生じるが、そこで日銀が10年金利の15bp程度の上昇を放置したとする。市場がそれを金融引き締めとみなすのか、それともイールドカーブコントロールに失敗とみなすのか、この点が注目される。
Q:総括的検証の全体感は?
A:事前の予想では自己肯定的な色彩が強くなると予想されていたが、ペーパーでは幾つかの点で否が認めれており、これまでの姿勢に比べて中立的な印象を受けた。 たとえば「これまでのところ、マイナス金利政策は、貸出・ 社債・CP金利の低下にしっかりとつながっている」と従来からの見解が示された一方、 「今後、さらなる金利低下が貸出金利にどのように波及していくかについては、金融機関の貸出運営方針にも依存する」として、マイナス金利の深掘りが望ましい効果を生み出さない可能性が指摘された。また、マネタリーベース(≒長期国債の買入額)と予想インフレ率の関係が短期的には希薄(非線形)である可能性も指摘されるなど、これまでの姿勢から変化が感じられた。政策効果については「これまでの政策は正しかったが、これ以上はあまり意味がない」との印象を受けた。総括的検証を見る限り、追加緩和の可能性は低いと判断される。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。