ミカンコミバエ「緩みが二の舞に」鹿児島県・徳之島誘殺 奄美大島でも警戒を
農林水産省門司植物防疫所はホームページで侵入調査の対象となっている病害虫の発見状況を公開している。果樹・果菜類の害虫ミカンコミバエをみてみよう。台湾やフィリピンといった発生国に近く、主に風に起因する誘殺が確認されることから定着防止へ侵入警戒対策(トラップ・寄主果実調査、誘殺板散布)を実施している沖縄県の数字を注視したい。 今年度の誘殺数は9月末現在合計105匹と100匹を超えている。鹿児島県は今月2日の徳之島町での誘殺数18匹で一気に増え合計32匹となったが、沖縄は3倍超の多さだ。注目したいのが月別で、沖縄では9月に入り急増しており、9月計で52匹と全体の半分を占め、同月に集中したことが分かる。 市町村別では最多が石垣市の41匹、これに次ぐのが八重山郡竹富町28匹、宮古島市27匹。3市町で計96匹とほとんどを占める。風による発生国からの飛来。影響を与えるものとして日本の南海上で発生する台風を想定したい。今年の発生数は5月2、7月同と少ない傾向だったが、8月6、9月8とこの2か月間で増加したことから、先島諸島での9月の増加は台風の発生・進路、それによる風の吹き込みと関係すると考察できないか。 徳之島での誘殺の増加、今年度初となった幼虫の確認も「8月に飛んできた個体の次世代」という見方がある。植防によると、夏季は産卵後1日以内にふ化し、幼虫が果実の内部を加害するが、幼虫期間は6~35日間で、土中でさなぎ化し、10~12日後に成虫となって出現する。 「緊急防除によりタンカンなどが島外に出荷できなくなった当時(2015年12月~16年7月)と比べると今は誘殺確認後の初動対応がしっかりしており、農家としては安心できるが、徳之島の数の多さを隣の島である奄美大島でも警戒しなければならない。気の緩みが二の舞になる。農家は緊張感を持ちたい」。JAあまみ大島事業本部果樹部会長の大海昌平さん(67)は語る。注意を呼び掛けるのが、ミカンコミバエが特に好むグアバ。「果樹園周辺に植樹されているのを見掛ける。収穫期は徳之島では終盤のようだが、ここはまだ着果しており、熟しても収穫することなく放置されている。また、崖地などにある寄主植物も注意が必要だ。テックス板(誘殺板)による防除、人の手による除去といった初動対応しにくい場所は、飛来後に寄生し定着、発生を繰り返すホットスポットとして残る可能性がある。誘殺状況から発生リスクは常にあるとして農家は適切な管理を重ねていきたい」と指摘する。 植物防疫法に基づく緊急防除が実施された15年も、10月に入り誘殺数が急激に増加した。同月だけで加計呂麻島を中心とした瀬戸内町で436匹、奄美大島全体でも491匹の誘殺が確認され、誘殺確認地域は奄美市笠利町を除く島内ほとんどに及んだ。移動制限区域内の寄主果実は廃棄命令の対象となり、生産が盛んなタンカンの廃棄処分量は約1514㌧に達した。行政の予算化で買い上げ措置が取られたが、再び緊急防除となった場合、多額の税金を投入しての買い上げが同様の額で再現されるかは未知数だ。 大海さんは振り返る。「当時は行政にいたが、緊急防除に伴う市町村職員の事務作業は膨大でかなりの負担となる。また、生産された果実の買い上げの際は熟期を避けるため早期の処分となり、それによってバランスが崩れるなど樹木の状態が悪化したのか隔年結果がひどくなった。影響は4~5年にも及んだだけに深刻な打撃となることを肝に銘じなければならない」 初動対応が強化されている徳之島だけでなく、奄美大島を含む他の島も誘殺状況に関心を持ちながら「自らにできる取り組み」を実行したい。さらに調査体制の見直しも必要ではないか。ミカンコミバエは、メチルオイゲノールという物質に雄成虫が強く誘引されることから、トラップ調査では、この物質を誘引剤として利用して雄成虫をモニタリングしている。物質への反応の低下、反応しない個体の存在も指摘されており、予察のためのトラップ数増も検討すべきだと思う。