待ち望んだ新薬、しかし日本では未承認…「待っていられない」と独自に輸入する道を選んだ男性の奮闘と願い
問題は高額な費用だ。薬は専門の業者に依頼すれば輸入できるが、日本で承認されていないため公的保険が使えない。つまり全て自費になる。トフェルセンはまず14日間隔で3回投与し、以降は28日間隔で投与し続ける必要がある。輸入にかかる費用など含めると年間で3千万円かかる計算だ。 自己資金だけではとても賄えない金額。青木さんや家族は寄付を募ることにした。事情を知った友人らも加わり「青木渉サポーターの会」を設立。ホームページも作り、青木さんは自身の状況や新薬が日本ですぐに使えない現状の問題点を動画で訴えつつ、募金への協力を呼びかけた。 サポーターの会は、家族や友人ら4人が中心となって活動している。谷口優貴さん(26)もその一人。青木さんが店長をしていた飲食店で大学時代にアルバイトをしていた。「青木さんはお兄さんみたいな存在。ALSだと聞いた時は信じられなかった。一緒に働いた日々のことを思い出して気持ちを整理して、恩返しをしたいと考えた」と語る。
そして23年9月。青木さんがホームページで公開した動画で「トフェルセンの投与が決まりました」と報告した。寄付が集まり、3回分を輸入できた。かかった費用は、輸入の経費も含めて約750万円だった。 1回目の投与は9月19日。麻酔をかけ、脊髄に薬を注入する。その後、10月半ばまでに3回の投与を終えた。1回目の投与後に一時期尿が出なくなったが、以後、特に大きな副作用は出ていないという。 ▽「一刻も早く公的保険のもとで投与を」 「トフェルセンを投与するまでの3~4カ月でかなり病気の進行が早まった」と青木さんは明かす。家の中では壁を伝いながら何とか歩けるが、外出時は電動車いすを使用するようになった。足があまり動かないのに加え、手も親指に力が入りにくいため着替えなどに苦労する。長時間の会話は消耗するため、取材を受ける時間も30分間に抑えている。 トフェルセンを3回投与して以降の体の具合を尋ねると「穏やかな感じ。進行が早まった頃と比べると、体の変化をほとんど感じない」。「募金を通じて、人の優しさに触れている。病気になっても大切にしてくれる友人や家族の存在を感じることができた」。そう感謝を口にする。