待ち望んだ新薬、しかし日本では未承認…「待っていられない」と独自に輸入する道を選んだ男性の奮闘と願い
診断が確定した時点で、青木さんには一つの希望があった。それが米国のバイオ医薬品企業アイオニス・ファーマシューティカルズと製薬企業バイオジェンが開発していた新薬「トフェルセン」だった。SOD1遺伝子に働きかける「核酸医薬」という薬で、臨床試験では、28週間後の時点で神経の損傷を示す血中物質が減少。筋力や呼吸機能の低下を抑えると期待されている。 米食品医薬品局(FDA)は23年4月、トフェルセンを承認した。ただ24年1月現在、日本では開発元のバイオジェンが承認を申請しておらず、国内で実用化される見通しは立っていない。 ▽進む症状、そして独自投与へ 新薬はあるのに自分は投与できない。待つ間にも症状は進行した。お腹や太もも、腕の筋肉がビクビクけいれんする。23年6月の時点で、つま先に力が入らなくなり、両手で杖を突きながらでないと歩けなくなっていた。自宅から100メートル先のコンビニに行くだけでも息が切れて汗が噴き出した。マンションの3階に住んでいたが、階段の上り下りも難しくなり、引っ越しを余儀なくされた。
「このまま進行して、どうなるのかという恐怖感は毎日ある」。当時YouTubeに公開した動画で青木さんはそんな思いを吐露していた。長い時間話すのもつらくなってきた。勤めていた飲食店は休職している。 症状の進み具合を考えると、1年、2年と待つ余裕はない。できる限り早く投与するため、青木さんを診療する東京医科歯科大の横田教授らが動いた。 国内で承認されていない薬でも一定の条件が整えば、投与する方法がある。「未承認新規医薬品等を用いた医療」という国の仕組みで、16年に導入された。この仕組みを使うべく、横田教授らが23年5月に病院内の評価委員会に申請書を出し、後に認められた。投与する道が開けた。 計画を進めていた当時、横田教授は「薬があるのだから、目の前の患者に早く投与してあげたい。1人でも認められれば、他の患者でも認めてもらうための道筋になる」と話していた。 ▽費用は高額、寄付集め投与実現