口の中の状態 問題のないリハビリ患者はある患者と比べて、動きの能力2倍に そのワケは?
病気やけがで入院した患者が体の状態を回復させるには、しっかりと栄養を取ることが必要ですが、歯が悪いなど口腔(こうくう)機能が不十分な患者もいます。国は入院患者の歯や口のケアを評価し、医療機関が高い診療報酬を得られる仕組みを今年6月に導入しました。(米山粛彦) 【図解】歯周病 空気や水の力で「プラーク」を取り除く新手法
リハビリ効果半減
脳卒中や転倒による骨折、肺炎などの病気やけがで入院した患者は治療を終えた後、リハビリテーションや療養のための病院に移ります。そこでは腕や脚を動かしやすくする筋力を回復させ、日常生活に戻るための訓練をします。 ただ、こうした入院患者の多くは高齢で、歯が欠けている、入れ歯が合わない、口の中が汚れている、のみ込みにくいなど、歯や口の周辺にトラブルを抱えています。うまくかめなかったり、のみ込めなかったりして栄養不足となり、リハビリの効果も半減します。うまくのみ込めず、肺炎になる場合もあります。
国は今年度の診療報酬改定で、リハビリや中長期の治療を担う病院で歯科医や歯科衛生士が歯や口のケアを行うと、診療報酬を上乗せすることを決めました。 各医療機関は患者の歯や口の状態を調べ、〈1〉歯科医や歯科衛生士らが入れ歯を調整〈2〉口の中をきれいにする〈3〉かむことやのみ込みの訓練をする――などの対応をします。 歯科医らは患者の食事に付き添います。食べる量や、のみ込みの様子も確認した上で、ゼリー状や小さい食材を提供したり、量を調節したりします。のみ込みが失敗しにくい姿勢も探ります。医師や看護師、リハビリの専門職らともよく話しあいます。
入院生活も充実
熊本リハビリテーション病院(熊本)の研究チームが入院患者約1000人を対象に日常生活で必要な動きの能力を調べると、口の中に問題がない患者たちは問題のある患者たちに比べ、2倍高くなりました。認知の水準についても、口の中に問題がない人が問題のある人を上回りました。 同病院の歯科衛生士の白石愛さんは「口の状態が良くなり栄養が取れれば、かんで踏ん張り運動もできる。入院生活もより充実します」と語り、サルコペニア・低栄養研究センター長で医師の吉村芳弘さんは「口のケアと栄養の改善、リハビリを一体で進めることで日常に戻りやすくなります」と強調します。 近くに住む男性(72)は11年ほど前に脳梗塞(こうそく)で左腕や左脚が自由に動かなくなり同病院に入院しました。当初は虫歯の痛みで食事もままならず、リハビリと合わせて歯科治療を受けました。男性は「おかげでよくかめるようになりました」と言い、今も持病や歯の状態を確認するため定期的に通院しています。 口の状態が悪い要因には日頃のケアの不足が挙げられます。定期的な歯科の受診は大切で、寝たきりで外出が難しければ訪問歯科診療を利用しましょう。毎日の歯磨きを心がけ、会話などで口の周りを積極的に動かすことも勧められます。 陵北病院(東京)副院長で歯科医の阪口英夫さんは「普段から歯や口の手入れをしておけば、入院した場合にも早い回復につながります」とアドバイスしています。