本当になかった怖い話……。ハロウィンの夜を深めるテレ東“モキュメンタリーホラー”のススメ
さまざまな映像を配信で手軽に視聴できる昨今、秋の夜長に観るコンテンツの種類には事欠かない。今回はその中でも、2024年の今まさに、面白さの成熟期を迎えていると思われる“モキュメンタリーホラー”というジャンルの番組をご紹介したい。ハロウィンの夜のお供にもぴったりなはずだ。 【画像】超低予算で大ヒットしたでお馴染みの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は、ホラー映画界のヒストリカルな一作U-NEXT配信ページより ■ 近年のホラー界のトレンド「モキュメンタリーホラー」とは そもそも“モキュメンタリー”とは何か。これは「実話ドキュメンタリー風に演出したフィクションのコンテンツ」のこと。「mock(=偽物の)」と「documentary(=ドキュメンタリー)」から成る合成語で、別名「フェイクドキュメンタリー」とも呼ばれる。 この演出でホラーコンテンツを作ったのが、モキュメンタリーホラーだ。めちゃめちゃ簡単に言うと、「最初から作り物だとわかっている怖い話」である。 一応ジャンル自体は昔からあって、映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」やフジテレビ「放送禁止」シリーズ、小野不由美の小説「残穢」など、各分野で該当作品は枚挙にいとまがない。 映像界隈でそのルーツをガッツリ遡ろうとすると、'80年代の歴史的カルト映画「食人族」など、いろいろ出てくるが、「モキュメンタリーホラーって何?」という質問に対しては、「ブレア・ウィッチみたいなやつ」と答えれば一発で伝わるのではないだろうか。 ……で、特にここ数年のホラー界隈では、このモキュメンタリーホラーがひとつのトレンドになっている。それに特化したYouTubeチャンネル「フェイクドキュメンタリーQ」が牽引役になったこともあり、色々と話題のコンテンツが登場した。一般参加型のモキュメンタリーホラー考察イベントなども、続々開催されている。 「本当にあった怖い話」ではなく、「予めフェイクだとわかっている怖い話」が人気なのはちょっと面白い。これは近年の“考察ブーム”も背景にありそうだ。SNS上で、一般人が考察を交わして楽しめる時代性とモキュメンタリーホラーのシンクロ率が高いのだろう。実際、作品公式で完全な解答を出さず、考察が捗る余白を残して終わるものが多くてそこが面白い。 そんな中、モキュメンタリーホラー番組の制作に力を入れているテレビ局が、テレビ東京。令和の時代性に合わせた、良質なモキュメンタリーホラー番組を定期的に放送している。もはや「今どき感のあるモキュメンタリーホラーなら、とりあえずテレ東のやつを観ればOK」というブランドを確立している感もあって頼もしい。 ■ 不定期でTVerに現れる、テレ東モキュメンタリーホラー5選 というわけでここからは、配信で視聴できるテレ東のモキュメンタリーホラー5作をご紹介していこう。もちろんネタバレなしなので安心してほしい。いずれの番組もU-NEXTで常時配信中だ。 「U-NEXTだけなの?」という声も聞こえてきそうだが、実は5作とも、たま~にTVerで期間限定配信されることがある。この、「TVerに不定期で配信される」というのが、希少価値の高い生物やゲームのアイテムが出現するような“レア感”があって、テレ東モキュメンタリーホラーのミステリアス性を高めている気すらする。 以下、U-NEXT未加入の方のために、紹介番組ごとにTVer公式ページのURLも貼り付けておく。もしアクセスしたタイミングで番組が配信されていたら儲けモノなので、すぐに視聴してみてほしい。ちなみに10月31日時点で、TVerで配信されているのは「祓除」のみだった。 ・Aマッソのがんばれ奥様っソ(2021年・BSテレ東・全6回) U-NEXT:https://video.unext.jp/title/SID0093302 TVer:https://tver.jp/series/srsh2ovzu6 女性お笑いコンビ・Aマッソによる、BSテレ東での初冠番組。芸能界のおせっかいタレントが、一般家庭に出向き、忙しい奥様たちの家事や仕事を手伝ってあげるというドキュメント型バラエティ。「お笑いあり、涙ありのハートウォーミングバラエティです!」という触れ込みで、本当に普通のバラエティ番組の体裁で放送された。 ところが、番組が進行するごとに、登場する奥様やその家族の様子には徐々に違和感が……。VTRには“どう考えてもおかしいシーン”も映るのだが、スタジオの進行役であるAマッソもスタッフも、なぜかそのことに気づかない。結局、視聴者の深い違和感を置いてけぼりにしたまま、明るく番組は終わる。 本作をモキュメンタリーと知らず、普通の番組として観ていた視聴者も多かったようで、視聴後に「何この番組? 怖い……」と軽く混乱した人も少なくなかったようだ。ミステリー界で言う“イヤミス”(=嫌な気分になる読後感の悪いミステリー)のようなVTRのストーリー性が、後味の悪さを倍増させて良い。 ・このテープもってないですか?(2022年・BSテレ東・全4回) U-NEXT:https://video.unext.jp/title/SID0093307 TVer公式:https://tver.jp/series/srh307bgwg 一般視聴者の家庭に保管されている、昔のテレビ番組が録画されたビデオテープを募集し、誰も覚えていないような昭和の放送を発掘する番組。「放送当時の貴重映像をそっくりそのままお届け!」という内容なのだが、観ているうちに視聴者は「こんな過去番組、本当は存在しなかったのでは……?」という疑問を徐々に抱くことになり、いつの間にか“テレビという狂気”に巻き込まれていく。 「知らない誰かが記録した過去の映像が恐怖を生む」という設定は、映画「リング」や「ブレア・ウィッチ~」から続くホラー界のお約束。本作はそのフォーマットを前提に、「テレビに映る出演者たち」と「イチ視聴者の私たち」の間にある圧倒的な距離感を提示することで、視聴者を愕然とさせる作りが圧巻だ。この愕然とする感情こそ、ホラーの醍醐味と言える。 出どころのよくわからないビデオテープを媒介し、過去のテレビ放送と現在のテレビ放送が徐々にクロスしていく構成は見事で、令和のテレビ番組を手掛ける制作陣の矜持のようなものすら漂ってくる名作。 ・SIX HACK(2023年・テレビ東京系列・全4回) U-NEXT公式:https://video.unext.jp/title/SID0089825 TVer公式:https://tver.jp/series/srkmqp0qoh この世には、2種類の人間がいる。“偉い人”と“偉くない人”。「現代社会で必要なのは、“偉くなる”こと。偉くなって正しいことをしよう」をテーマに、日本社会で偉くなるために不可欠な6種類のハックをお届けする……という、いわゆる“意識高い系”の番組。フジテレビのドラマ「踊る大捜査線」からの引用も熱い。 ところが、番組が進むにつれハックの内容は理解不能度を増し、視聴者の中には「番組自体が何者かに“ハック”されているのではないか?」という不安が芽生えていく。すると、全6回を予定していたはずの番組は、4回目で突然放送休止になってしまう……。 見始めた当初はホラーではなく、フジテレビ「全力!脱力タイムズ」なんかを彷彿とさせるシュールなバラエティ番組かと思うのだが、番組内容は徐々に不穏になり、本当に放送が休止されたりして、最終的にちゃんとホラーに収束する。同時に、フジテレビ「ウゴウゴルーガ」や日本テレビ「ブラックワイドショー・㐧三惑星放送協會」など、過去のシュール系番組の系譜に位置付けられる側面もある一作。 ・祓除(2023年・全3回) U-NEXT公式:https://video.unext.jp/title/SID0095840 TVer公式:https://tver.jp/series/sr8qfkqfeb 2023年11月18日、テレビ東京は「祓除(ふつじょ)」と題した、一般参加型のリアルイベントを開催した。開局60周年を迎える同局の繁栄を願い、視聴者から投稿されたものやテレビ東京に保管されていた、“穢れを持つ映像や物品”を無害化する式典だ。イベントでは、祓除師・いとうよしぴよが“祓除の儀”を執り行い、その模様はリアルタイムで配信された。しかしその式典の裏で、実は予定外の出来事が起きていて……。 という、「本当に開催されたオカルトイベントを配信した映像のアーカイブ」という体裁の作品(演出がメタすぎる)。内容としては、「祓除」式典当日の様子を納めた「本編」のほか、式典の開催に至った経緯を描く「事前番組」と、式典後の様子を映した「事後番組」の合計3本で構成される。「事前番組」から通して観ることで、面白さが倍増する仕掛け。 3本目の「事後番組」を観れば、それまでの謎が解決すると思いきや……あれ……? な構成が、今どきのモキュメンタリーホラーといった感じで見応え十分。 ・イシナガキクエを探しています(2024年・テレビ東京系列・全4回) U-NEXT公式:https://video.unext.jp/title/SID0102812 TVer公式:https://tver.jp/episodes/ep1x3z0oix 55年前に突然行方不明になった女性“イシナガキクエ”を探す、特別公開捜索番組。残念ながら、本件の依頼者である男性は、初回放送日の直前に亡くなってしまった。しかし、番組スタッフがその遺志を受け継いで、予定通り番組を放送し、イシナガキクエを探すことに。 だが、番組に寄せられるイシナガキクエの情報が明るみになるにつれ、視聴者の中には徐々に違和感が膨らんでいくこととなる。そもそも、依頼者がこのタイミングで亡くなったのはなぜなのか……? 本作で特筆すべきは、公開捜査番組=生放送という超リアルタイムっぽさのあるモキュメンタリーの仕掛けをとったこと。番組の放送中は、本件の情報提供先として画面上に“とある電話番号”が表示されているのだが、視聴者がここに電話をかけると実際につながるようになっていた。 「モキュメンタリーホラーに初めて触れる視聴者にも、その面白さがわかりやすいストーリー」を実現しつつ、「放送中のリアルタイム感は過去イチ高い」というバランスが素晴らしい良作。2021年「Aマッソ~」から2023年「祓除」までの流れを経て、ここぞとばかりにテレ東モキュメンタリーホラーの面白みをぶつけてくる。 ■ 今後もメタメタに深まっていくであろう、モキュメンタリーホラーの迷宮 さて、ホラーではないモキュメンタリー番組まで広げると情報過多になるので、本記事では割愛したが、テレ東にも2015年の「山田孝之の東京都北区赤羽」とか、2021年の「蓋」とか色々あって、“テレ東的モキュメンタリー演出”は色々と楽しめるので、ご興味を持った方はチェックしてほしい。 あと、今回はテレ東作品だけにフォーカスしたが、2024年は中京テレビ制作のドラマ「初恋ハラスメント ~私の恋がこんなに地獄なワケがない~」もSNSと連動したホラー演出でバズっていたし、話題の作り方も含めてモキュメンタリーホラーの一つの成熟期が来ている印象だ。 基本的にホラーを含むミステリーは、その特性上、本格派を突き詰めると得てしてメタな演出になりやすい。その中でも特にモキュメンタリーホラーの分野は、構成がメタ前提のジャンルであるため、盛り上がるほどにメタ演出が重なっていく。 「SIX HACK」や「祓除」もすでに“メタのメタ演出”を使っているが、今後はどんな風にこのメタ演出が広がり、人々の考察を深めていくのか? ……という視聴者の期待すら演出に取り込むような、メタメタなモキュメンタリーホラーの登場を今後も期待したい。
AV Watch,杉浦みな子