リベラルは“死んだ”のか? 復活への処方箋は… 吉田徹・同志社大学政策学部教授【時事時評】
◆経済発展を続けていくためには ではリベラルな政治や価値は、時代から消滅していくことになるのか。必ずしもそうとは言い切れない。まず、未来が明るいものとしてイメージされないからといって、過去に戻れるわけではない。歴史的にみれば、制度的・社会的包摂性や開放性が高い政体こそが、経済的発展を遂げてきたということを実証したのは、ノーベル経済学受賞者となったアセモグル、ロビンソン、ジョンソンだった。1981年に世界人口の4割が極端な貧困状態に置かれていたのが、グローバル化や自由貿易の恩恵でもって、その割合は2020年に1割以下にまで減った。豊かさを維持したいのであれば、リベラル的価値を手放すのは賢明なことではない。 次に、リベラル的価値は、社会学者イングルハートによる図式を借りれば、「生存的価値」に対する「自己表現」、「伝統的価値」に対する「世俗的価値」からなる。そして、世界90カ国で約40万人を対象にした「世界価値観調査」を確認する限り、少なくとも先進国では過去40年間で「自己表現」と「世俗的価値」を一層重んじる人々の数は増加傾向にある。価値観は世代間で伝達される傾向があるから、このトレンドはますます強化されていくと予想される(ただし、旧東欧諸国やロシアでは正反対の傾向が見て取れる点が、国際情勢を占う上では気掛かりではある)。 近代という時代そのものがリベラル的価値とともにあった。だから、近代化に逆行する意識や思想は「反動」と呼ばれてきた。個々の選挙や事象を超えてみるならば、長期的にはリベラル的価値や意識は死んでないばかりか、これから一層強まるとも考えられよう。 ◇ ◇ ◇ 吉田 徹(よしだ・とおる)1975年、東京生まれ。慶応大学法学部を卒業後、東京大学総合文化研究科で博士号を取得。仏パリ政治学院招へい教授、北海道大学教授などを経て、2021年から現職。専門は比較政治、ヨーロッパ政治。主な著書に『アフター・リベラル―怒りと憎悪の政治』(講談社現代新書)、『居場所なき革命―フランス1968年とドゴール主義』(みすず書房)など。