伊勢﨑賢治×柳澤協二「"戦争の終わらせ方"なんて本当にあるの? あるなら、どうして終わらないの?」
伊勢﨑 もうひとつ。「国の主権」や「領土」は当然大事ですが、それを金科玉条(きんかじょくじょう)のように絶対視してしまうと戦争を避けられない。ロシア・ウクライナ戦争におけるロシア系住民や、イスラエル国内のパレスチナ人もそうですが、多くの場合、そうした紛争地にはマイノリティが住んでいて、戦争が始まると彼らが最大の被害者になります。 ですから、戦争を避ける、そして、起きてしまった戦争を止めるためには、一度、領土や国家主権への絶対視から離れて、柔軟な解決策を探す努力が必要になります。 それを実践したのが、戦前の国際連盟で事務次官を務めた新渡戸稲造です。彼はフィンランドとスウェーデンの紛争地となっていたオーランド諸島について、双方に領土と主権での妥協を求め「フィンランドの領有権を認める代わりに公用語はスウェーデン語とし、高度な自治を認める」という有名な「新渡戸裁定」で紛争を解決しています。 柳澤 日本でも、中国との間で尖閣諸島の領有を巡る争いや、中国と台湾の有事に巻き込まれる可能性などが議論されていますが、「そのとき、いかに戦うか」という勇ましい話の前に、「なんとかして戦争を回避する方法」を真剣に、そして柔軟に考える必要があると思います。 今、私たちがウクライナやガザで目にしているように、戦争は一度始まったら簡単には止められない。それはすべての人にとって不幸なことなのですから。 ●伊勢﨑賢治(いせざき・けんじ)1957年生まれ。東京外国語大学名誉教授。大学教授の傍ら政府や国連から請われ、シエラレオネやアフガニスタンの武装解除を指揮した紛争解決請負人。著書に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(文庫増補版、集英社文庫)など。ジャズトランペット奏者 ●柳澤協二(やなぎさわ・きょうじ)1946年生まれ。70年、東京大学法学部卒業後、防衛庁(当時)に入庁。防衛審議官、運用局長、人事教育局長、防衛庁長官官房長などを歴任し、2002年には防衛研究所所長に。04年から09年にかけて、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)。国際地政学研究所理事長、「自衛隊を活かす会」代表 取材・文/川喜田 研 撮影/渡辺凌介 写真/時事通信社