伊勢﨑賢治×柳澤協二「"戦争の終わらせ方"なんて本当にあるの? あるなら、どうして終わらないの?」
柳澤 自分たちの声が、現実の戦争を止めることにつながっているとは思えない......という感覚は、私もわかる気がします。その上で、今起きている、悲惨な戦争に私たちがどう向き合うべきかと問われれれば、それはおそらく、私たちが「そこから学ぶこと」ではないでしょうか。 戦争について考える際は4つの段階に分けます。まずは戦争の前、つまり①「戦争が始まらないようにする」。それでも始まってしまったら、②「戦争をどう戦うのか」。その次に③「いかにして戦争に勝つか(終わらせるか)」があって、最後に④「再び戦争が起きないようにする」。 ところが、ウクライナやガザの戦争についても、ほとんどのメディアが2番目の「戦争をどう戦うのか」と3番目の「いかにして勝つか」ばかりに注目していて、「いかにして戦争を避けるか」や「戦争の後をどうするのか」という部分がきちんと議論されていないように感じます。第2次世界大戦に対する日本の姿勢も同じだと感じます。 伊勢﨑 そこで僕が強調したいのは「侵略者であるプーチンのロシアは悪者で、ウクライナは国を守るため正義の戦いをしている」というふうに戦争の一方の当事者を悪魔化して戦争に大義名分を与えてしまうことの恐ろしさです。 もちろん、ロシアのウクライナ侵攻は明らかに国際法違反ですが、ロシアにも戦争に踏み切った理由はある。その点を無視して「プーチンは悪魔だから絶対に許さない」と感情的に盛り上がっている限り、この戦争は止まりません。 これはハマスにも言えることで、イスラエルや欧米諸国は昨年10月のハマスの攻撃を「テロ」と呼ぶことで、イスラエルによるガザでの殺戮に「テロとの戦い」という大義名分を与えてしまった。 しかし、ハマスはパレスチナ人による選挙によって選ばれた立派な政体ですし、もともとイスラエルとは戦争状態にあるわけで、あれはテロではなく奇襲攻撃ととらえて考えるべきです。 柳澤 ただ、その攻撃でハマスが多くのイスラエルの民間人を殺害したり、人質に取ったりしたのは明らかな国際法違反ですし、ロシアだって「以前から内戦が続いていたウクライナ東部でのロシア系住民の保護」という大義名分があったとしても、それでキエフ陥落まで目指すのはやはりメチャクチャな話ですよね。 その上で、今、伊勢﨑さんが言われたように、仮にどちらか一方に明らかな非があるとしても、「単純な悪と正義の戦い」としてとらえるのではなく「彼らがなぜ戦争に踏み切ったのか?」という点をしっかりと検証しなければ、「戦争が起きないようにすること」や「戦争を止めたり、終わらせる方法」を考えたり、学ぶことができなくなる。