伊勢﨑賢治×柳澤協二「"戦争の終わらせ方"なんて本当にあるの? あるなら、どうして終わらないの?」
――逆に、小国のウクライナは欧米各国の軍事支援がなければ、ロシアと戦い続けることはできないですよね? 柳澤 確かに、欧米の軍事支援がなければ、ロシアの一方的な勝利という形で戦争が終わる可能性が高いでしょうね。 それこそ、侵攻を開始した当初のロシアが考えていたように、1週間でキエフを陥落させ、ゼレンスキーを排除し、ウクライナに親ロシアの政権を立てれば、戦争は1週間で終わったかもしれません。 しかし、それで良かったのかと言えば、そんなはずはない。このように、戦争を終わらせる条件は、どれも満たすのが難しいので、何よりも「戦争を始めない」ための努力が重要なのです。 伊勢﨑 確かに、戦争は一度始まると終わらせるのが難しいですが、僕は国際紛争の現場で実務家として働いてきた際、「戦争」は止められなくても「戦闘」を止めることを重視してきました。要するに「停戦」の実現です。 日本の身近にも例がありますよね。朝鮮半島です。1950年に始まった朝鮮戦争は今も終わっていません。今、38度線にあるのは1953年に定められた軍事境界線という名の「休戦ライン」で、その後も散発的な戦闘はありましたが70年以上も停戦が続いています。 ですから、たとえ戦争を終わらせるのが難しくても、人々の命と生活を守るため戦闘を止める方法を考える必要がある。僕が「一日も早い停戦を!」と強調しているのもそのためなのです。 ■長続きすれば、核使用の可能性が 柳澤 とはいえ、その停戦の実現もなかなか難しいですよ。 例えば、ガザの場合、イスラエル側の目標は「ハマスの殲滅」ですが、ハマスはガザに暮らすパレスチナ人コミュニティと密接につながっていますから、現実にはガザにあるパレスチナ人社会を完全に破壊しようとしているように見えるし、実際、3万人近い民間人の犠牲を出しても、イスラエルが戦いを止める兆しはない。 軍事力の面でも圧倒的に有利で、アメリカという後ろ盾を持つイスラエルが、こうした戦争の目的を抱き続けている限り、彼らが停戦に応じる可能性は低いでしょう。 その場合、南アフリカがイスラエルの行為をジェノサイド(集団殺害)だとして国際司法裁判所に提訴したように、国際社会がイスラエルとアメリカに停戦への圧力をかけるしかないのかもしれません。