金銭債権のトークン化、10兆円とも言われる巨大市場の可能性とは──NTT Digital、シンガポールでAmazon売掛金のトークン化を展示
金銭債権トークン化の2つの可能性
100兆円と比べれば、10分の1の数字だが、金銭債権は少なくとも毎月、日本中で発生しており、そもそも金銭という抽象化された権利なので、ブロックチェーンで扱うことはより簡単なはずだ。 前述の成本氏に取材したところ、次のように金銭債権トークン化の可能性を語った。 「金銭債権トークン化は以前から提唱しており、2つの意味で有望と考えている。1つは、セキュリティ・トークン(ST、デジタル証券)は有価証券として扱われるため、規制が重く、コストもかかってしまう。もともとトークン化とは、従来、証券化できなかったものを低コストで小口化できることがメリットだった。ならば、有価証券にあたらないものを考えたときに、金銭債権のトークン化は1つの有力なユースケースとなり得る」 現在のファクタリング・サービスは、成本氏によると金銭債権を売買しているだけで、ライセンスは不要という。今後、規制対象になる可能性はあるものの、現状は取り組みやすい分野とのことだ。 「もう1つは、ファクタリングはいわば間接金融で、ファクタリング会社は買い取り資金を銀行などから調達する必要がある。そのコストは買い取りのときの割引率に反映され、割引率が大きくなる要因となる。トークン化によって、余剰資金を持っている人と現金化したい人を直接つなげるような、直接金融的な金銭債権の売買ができると面白い。小口化も必要になるだろうから、取引が1対Nとなったときには、管理も含めてブロックチェーンのメリットを活かすことができる。さらに支払いがステーブルコインだと手間とコストをさらに減らすことができる」 日本は、中小企業が99.7%を占める(中小企業庁のデータ)。ほとんどが中小企業であり、中小企業が日本経済を支えている。さまざまな業界で多重下請けが問題視されているが、問題の1つが資金繰りだ。 下請け構造の下部に位置する中小企業にとっては「最終的には大企業が支払う債権を流通させて、資金調達したいというニーズがある。一方で、余剰資金を持っている人にとっては、金銭債権を額面の3%割引、例えば、90日後に100万円が払われる売掛債権を97万円で買うと年率では約12%の利回りになる。余剰資金は、事業会社でも個人でも構わない。双方をマッチングすることによって生まれるWin-Winのメリットは非常に大きい」と成本氏は説明する。 もちろん、金銭債権にはリスクがある。発行元に信用力がなければ、そもそも成立しない。 「結局は債務者(支払側)のリスクに収斂する。今回の実証実験は、Amazonに対する債権(=Amazonからの支払い)をトークン化してるので、信用リスクとしては限りなく低いのであろう」(成本氏) その他にも、大手自動車メーカーと下請けの部品メーカーとの取引など、最終的な債務者(この場合は、自動車メーカー)の信用力が高い場合には、有効なビジネスモデルになり得るだろう。