台風21号は第3室戸台風だった? 大阪市内で毎秒70メートルに迫る暴風 大都市特有の暴風リスクの怖さ
大都市には大都市特有の暴風リスクがある──。 昨年9月に近畿地方を縦断し、各地に甚大な被害をもたらした台風21号。高潮によって、関西国際空港の滑走路などが浸水してしまった光景を覚えている人も多いだろう。しかし、この台風のもう一つの大きな特徴は「強い風」が大都市を襲ったことだった。 台風21号・4日の交通機関運行に影響 商業施設も臨時休業へ
近代的な大都市が初めて経験した台風災害 大阪市内で毎秒70メートルに迫る風の可能性
昨年9月下旬、日本風工学会が開いた台風21号調査速報会では、専門家から「あるレベルを超えた強風が近代的な大都市を初めて襲った事例。竜巻レベルの被害が広域で多数発生した」などの声が聞かれた。実際に、大阪市内の気象台観測点では、室戸台風(1934年)、第2室戸台風(1961年)に次ぐ観測史上歴代3位の最大瞬間風速47.4メートルを記録した。 さらに、京都大学防災研究所の研究チームがこのほど、台風の通過に伴って、大阪市の中心街では瞬間的に毎秒70メートルに迫る猛烈な風が吹いていた可能性があるとする研究結果を明らかにした。毎秒70メートルというと、新幹線並みの速度。木造住宅が倒壊し始めたり、鉄骨倉庫が変形するような猛烈な風だ。研究チームの竹見哲也准教授(気象学)は「高層ビルが立ち並ぶような大都市には、特有の暴風リスクがあることが改めて分かった」と話す。研究結果は、国際学術誌電子版に掲載されている。
都市の凸凹が気流の乱れを生む JR難波駅周辺を襲った猛烈な風
大阪の市街地では、建物や家屋の被害、樹木の被害、飛散物による被害が多数発生したが、実際の市街地でどのぐらいの瞬間的な風が吹いていたかは、実測値がないためはっきりと分かっていない。竹見准教授らの研究グループは、気象データと大阪の市街地の建物の詳細なデータなどを組み合わせることで、当時の大気の流れの状況をスーパーコンピューターを使って再現した。 シミュレーションでは、当時上空300メートルで風速は最大で毎秒70メートルに達していたと推定。この風を基準として大阪の市街地の地面近くの風の強さの分布を調べると、ところによっては上空と変わらないレベルの風が吹いていた、との結論が得られたという。 どうしてこのような風が市街地で吹いたのか。竹見准教授は次のように解説した。 「基本的に風というのは水平方向に吹きます。それが上下方向に激しく吹くのはどういう時か。急な雷雨や竜巻など、積乱雲がもたらす激しい現象の時が一つです。そして、もう一つが今回の台風の時のように、気流が大きく乱れた時です。それでは気流が乱れるのはなぜでしょうか。ツルツルした地面であれば、気流の乱れは大きくない。例えば、海の上とか、砂漠などです。しかし、草地、森林、市街地、そして大都市の中心街というように、地面が凸凹になればなるほど、乱れが激しくなる。すると、水平方向に吹いていた上空の風が、地面付近まで吹き降りる現象が起きるのです」 大都市の場合は、高層ビルなどが林立していて、凸凹が激しい。このため気流が乱れてしまうということのようだ。 「それだけではありません。大通りや広場、公園などがある場所では、吹き降りてきた強い風が周囲から集まり、さらに強い風となる傾向があります。一つの要因だけでは、今回の研究結果で示したような風にはならないのですが、複数の要因が重なると、とんでもない風が吹くことがあるのです」 今回の研究の結果、猛烈な風が吹いたと考えられる場所はどこだったのだろうか? 研究では、大阪の市街地を東西2キロ、南北3キロの範囲を2メートル四方という細かさで区切って、シミュレーションを実施しているが、JR難波駅周辺が上空300メートルで吹いていた毎秒70メートルに迫る風が吹いていたところにあたるという。竹見准教授は「地図を見てもらえば分かると思いますが、ホテルが入っている高いビルをはじめ、マンションやオフィスビルなどの建物がある一方で、御堂筋が南北に走っている。気流が乱れやすく、強い風が集まりやすい場所もあったといえそうです」と説明する。