いよいよ開幕!! 今夏の高校野球地方予選はこの「下克上チャレンジ」が熱い!!
■群雄割拠の地区から甲子園を狙う新鋭 激戦区の埼玉から甲子園初出場を狙っているのは、昌平だ。近年は関東大会の常連になっており、今春は埼玉大会準優勝、関東大会ベスト8に進出した。夏の埼玉大会は21年に浦和学院に4-10で敗れて準優勝、23年には花咲徳栄に6-7と惜敗してベスト4。埼玉を代表する両雄にも肉薄している。 チームを強化した黒坂洋介氏(現・福井工業大コーチ)が昨秋限りで退任したものの、現チームもタレントがそろっている。 今春の関東大会では、強肩強打の外野手・山根大翔が2本塁打、2年生ながら天性の飛距離の持ち主である櫻井ユウヤが1本塁打をマーク。春の神奈川王者である武相を相手に8-0(7回コールド)と圧倒してみせた。左腕の石井晴翔、古賀直己ら投手陣も整備されており、勢いに乗れれば悲願の甲子園初出場も見えてくる。 兵庫は伝統的に好投手がひしめき、今年も今朝丸裕喜(報徳学園)、津嘉山憲志郎(神戸国際大付)、村上泰斗(神戸弘陵)といった好右腕が覇権を争う。そんな中、昨秋と今春で兵庫大会準優勝と安定した戦いぶりを見せてきたのが須磨翔風だ。 同校は今季プロ野球で大活躍中の才木浩人(阪神)の母校であり、春夏通じて初の甲子園を目指す神戸市立高校。09年に須磨と神戸西が再編・統合して開校されている。 エース右腕の槙野遥斗は身長183㎝、体重85㎏とムッチリとした体つきで、ワインドアップからダイナミックなアクションでボールを投げつける。だが、本格派に見えて最大の魅力はスライダーのキレと制球力。高校生とは思えない粘り強いメンタリティで、長いイニングを抑え込む。 今春の近畿大会では、前出の大阪学院大高と対戦して3安打1失点の完投勝利をマーク。今坂目当てで球場を訪れたプロのスカウトをうならせる快投を見せた。 ゲームメーク能力にかけては高校屈指といえる実力者だけに、一発勝負のトーナメント戦は持ち味を出すのにうってつけの舞台。槙野の奮闘次第で、投手王国を制する可能性は十分にあるだろう。 広島は名門・広陵が今春に史上初の3連覇を果たすなど、黄金時代が続いている。そんな中、公立校ながら春の広島大会で準優勝と躍進したのが海田だ。同校OBであり、宮原、広といった公立校を強化してきた平﨑直樹監督が指揮を執って4年目。今春の中国大会では島根王者の益田東に5-4と粘り勝ちした。 エース右腕の松本遼太は最速145キロを計測し、プロのスカウトもひそかに注目する好素材。今春の広島大会決勝では広陵に2-8で敗れたものの、夏の大会は何が起きるかわからない。 22年夏の広島大会3回戦では、広陵が無名校の英数学館に1-2で敗れる波乱もあった。海田も絶対王者から金星を奪えるか、その戦いぶりに注目が集まる。 九州屈指の激戦区といえば福岡だが、今春は公立進学校の春日が県王者に輝いた。 ベテラン指揮官の八塚昌章監督は「準備野球」を標榜して、文武両道を実践。今春は福岡工大城東、自由ケ丘、九州国際大付、大牟田と強豪私学を次々に撃破して頂点に上り詰めている。 22年夏にはプロのスカウトも熱視線を送ったエース左腕の飯田泰成(現・関西学院大)を擁して、福岡大会5回戦に進出。ところが、部内で新型コロナ感染拡大が起きて出場辞退。あえなく不戦敗で夏の大会を終える悲劇もあった。 OBたちの思いを胸に、公立進学校が初の甲子園切符を手に入れられるのか。ハイレベルな福岡の地で、大いなる挑戦が始まろうとしている。 夏の地方大会は6月22日に北北海道、南北海道、沖縄の3地区を皮切りに始まっている。順調に日程を消化すれば7月29日までに全49地区の優勝校が決まり、8月7日から甲子園球場で全国高校野球選手権大会が開幕する。 今回紹介した9校は下克上を果たせるのか。それとも、プライドを背負う名門が意地を見せるのか。熱い戦いが始まろうとしている。 取材・文・撮影/菊地高弘 写真/井上幸太