「負ける相手じゃない」井岡一翔が“確たる”自信、大みそかに因縁の相手とダイレクトリマッチ その勝算は?
■怖い気持ちもあるが「必ず勝てると思う」
こうした決まった雪辱戦だが、井岡にとっては決して簡単な試合にならないことは言うまでもない。何しろ一度は負けている相手なのだ。もう一度負けるようなことがあれば、今度こそ「引退」の二文字を突きつけられることだろう。井岡自身「怖いという気持ちはある」と正直に胸の内を明かす。その一方で、「必ず勝てると思う」との言葉からは確かな自信が伝わってきた。その根拠は第1戦にあった。 7月の試合前、両者は「テクニックの井岡」、「手数とパンチ力のマルティネス」と色分けされていた。井岡が勝つならクレバーな技術戦でペースを引き寄せ、マルティネスを空転させてポイントで引き離す。マルティネスが勝つなら馬力と手数で井岡を下がらせ、攻勢をキープして逃げ切る。そんな予想が一般的だった。 しかし、蓋を開けてみると、試合は意外な展開を見せる。スタートからブンブン振りましたマルティネスに対し、井岡が渾身の左ボディを打ち込んで初回にダメージを与えると、ここからマルティネスはプランを一転、フットワークも使いながらクレバーに試合を組み立てたのだ。井岡はあまり予想していなかった「追いかける展開」を強いられた。 井岡は公約通り果敢に打って出た。打撃戦を辞さなかった。マルティネスに立ち向かっていく熱気と勇気が観客の心をとらえた。それは決して悪いことではない。ただし、これまでの常にクールで、詰め将棋のように相手を追い詰めていく井岡を思い出すと、少し「らしくないな」と感じられたのも事実だった。 「なんていうか、あの日はひたすら倒しにいってただけなんですよ。1ラウンドに効かせて、それはからとにかく倒そうとした。ボクシングをしていないんですよ。相手の方が臨機応変に、その時々の状況に対応していました」 いつもの井岡ではなかった。さらにそれを自覚しながら、こうも口にするのである。 「僕たちの世界は勝ち負けがすべてだし、敗者が美化されることはない。でも、あの試合、自分が出し切った、やり切ったという思いがすごくありました。1ラウンドに開始のゴングが鳴って、最後までまっとうに戦った。いいか悪いか分からないけど、勝ち負けなんて全然分からなかったです。同じ負けでも、過去の2敗とは全然違います」 井岡の初黒星は14年5月、3階級制覇をかけIBFフライ級王者、アムナット・ルエンロン(タイ)に挑戦して2-1判定負け。2度目は18年大みそか、4階級制覇をかけたWBOスーパーフライ級王座決定戦でドニー・ニエテス(フィリピン)に2-1判定で敗れた。 井岡に言わせると、この2試合は戦況を冷静に分析し、ポイントをしっかり頭に入れて勝利を狙ったものの、本人曰く「置きにいきすぎた」結果、小差で判定負けしてしまった。最後の一滴まで絞りきった試合とはとても言えず、大きな悔いが残ったという。マルティネス戦は敗れたとはいえ充実感があった。井岡の言う「全然違う」とはそういう意味である。 ならば井岡は全力ファイト、真っ向勝負ができたのなら、負けても仕方がないと考えるようになったのか。もちろんそうではない。大事なのはバランスだと井岡は言う。 「全力を出し切ることは大切ですけど、第3者的に俯瞰しているような気持ちも大事なんです。それが前回は、偏りすぎてしまった。何でなんでしょう。家族もできて、日本人として考えるべきことも深くなってきて……いろいろなものが熱くなりすぎました」