シリコンバレーに芽生え始めた「赤い変化」。トランプ新政権発足をにらむ起業家たちの思惑
こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。今回は、米大統領選の結果を踏まえてシリコンバレーがどう変わりつつあるかを紹介したいと思います。 【全画像をみる】シリコンバレーに芽生え始めた「赤い変化」。トランプ新政権発足をにらむ起業家たちの思惑 まず、2024年大統領選挙前までのシリコンバレーがどのような政治的傾向の土地柄であったのかについて。 元々、シリコンバレーはリベラルな価値観を支持し、敗れたカマラ・ハリス副大統領の民主党が強い支持基盤を持つ地域として知られています。 多様な価値観や移民の力を取り入れて次々とイノベーションを起こしてきたテック企業が多いシリコンバレー・ベイエリア界隈の地域では、テック企業の規制緩和やイノベーションを推進する政策との親和性が高いこと。また多様性・平等・環境保護・LGBTQ+の権利・移民の権利など、いわゆるポリコレ(ポリティカル・コレクトネス:特定のグループに対して差別的な意味や誤解を含まぬよう、政治的・社会的に公正で中立的であること)的な傾向の強い民主党のアジェンダが好まれる傾向があるからです。
テック業界の大資産家たちが一枚岩でなくなった
実際に近年の選挙結果を見ると、2016年大統領選挙では、民主党のヒラリー・クリントン候補がカリフォルニア州で約61.5%の得票率を獲得し、共和党のドナルド・トランプ候補の約31.5%を大きく上回りました。 また、2020年大統領選挙では、民主党のジョー・バイデン候補がカリフォルニア州で約63.5%の得票率で、共和党のドナルド・トランプ候補の約34.3%を大きく上回りました。これらの結果からも、カリフォルニア州では近年の大統領選挙において民主党候補が強く支持されていることがわかります。 では、2024年の選挙結果はどうだったのでしょうか。2024年のカリフォルニア州大統領選挙では、民主党のカマラ・ハリス候補が約59%の得票率で勝利し、共和党のドナルド・トランプ候補は約38%の得票率でした。 選挙結果の数字だけ見れば、民主党候補が勝利し続けており、これまでと何も変わっていないように見えるかもしれません。しかし、2024年の選挙ではこれまでと大きく異なる動きが生じました。それは、イーロン・マスクをはじめとしたテック業界のビリオネア等の多くがトランプ支持に回ったということです。 シリコンバレーの誰もが女性初の大統領が生まれると信じていた2016年のクリントン対トランプの選挙の際には、実際に私の周りでも共和党支持者はごく限られた人というイメージで、当時、自分が共和党支持者であることを周りに公言する人は多くはいませんでした。 そのような中でも、シリコンバレー著名人の中で唯一人トランプ支持をした人物がいたことが印象的だったことを覚えています。それは、ペイパル、オープンAI、パランティアテクノロジーズといった名だたるテック、AI企業を創業した起業家・資産家のピーター・ティール氏です。 2016年、ピーター・ティール氏がトランプ氏を支持した際、シリコンバレーでは大きな反響がありました。 彼のトランプ支持表明は異例の出来事と受け止められ、彼を裏切り者と呼ぶ人もいたほどです。ティール氏の支持表明に対し、シリコンバレーの多くのリーダーや企業は困惑や批判の声を上げました。例えば当時、世界有数のスタートアップアクセラレーターとして知られるYコンビネーターの代表であったサム・アルトマン氏は、ティール氏のトランプ支持に対して懸念を示したといわれています。 今回のアメリカ大統領選挙では、候補者を巡りシリコンバレーの有力者たちの間で激しい意見対立が繰り広げられました。これは、これまで一枚岩と見られていたテクノロジー業界やシリコンバレーのテックリーダーたちの間で見られなかった新たな動向と言えます。 例えば、今回の選挙でトランプ支持を公言した著名ビリオネアには以下のような人物がいます。 イーロン・マスク(Elon Musk):テスラやスペースXのCEOであるマスク氏は、トランプ氏の政策がビジネスに有益であると評価し、支持を表明した。 マーク・アンドリーセン(Marc Andreessen):著名ベンチャーキャピタル企業アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者であるアンドリーセン氏は、トランプ氏のスタートアップ支援政策に共感し、支持を明らかにした。 ベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz):同じくアンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者であるホロウィッツ氏も、トランプ氏の政策がテクノロジー業界に有益であるとし、支持を表明した。 デビッド・サックス(David Sacks):ペイパルの元幹部であり、ベンチャーキャピタリストとして知られるサックス氏は、トランプ氏の経済政策に賛同し、支持を示した。 チャマス・パリハピティヤ(Chamath Palihapitiya):元フェイスブック幹部であり、現在は投資家として活動するパリハピティヤ氏も、トランプ氏の政策に共感し、支持を表明した。 キャメロン・ウィンクルボス とタイラー・ウィンクルボス(Cameron and Tyler Winklevoss ):ジェミニ創業者であり、フェイスブックをマークザッカーバーグと立ち上げたことで知られるキャメロン・ウィンクルボス氏とタイラー・ウィンクルボス氏もトランプ支持を表明。トランプ氏へビットコインで寄付した。 このように、これまでの民主党一強という雰囲気が一変し、トランプ支持を公言する人が増えているのです。「赤い変化」と言えるのではないでしょうか。