シリコンバレーに芽生え始めた「赤い変化」。トランプ新政権発足をにらむ起業家たちの思惑
なぜトランプは「敵地」シリコンバレーでも支持を集め始めたのか
トランプ氏がシリコンバレーで支持を得た理由は、規制緩和や減税政策、ビジネスフレンドリーな姿勢など、企業やスタートアップが競争力を発揮しやすい環境を提供すると期待される政策によるものでしょう。 彼の市場原理重視の経済運営や、対中国強硬政策は、国内テクノロジー企業を守る取り組みとして評価される一方、カリフォルニア州における高税率や厳しい環境規制など、現在の民主党主導の政策への不満の蓄積が、トランプ支持の背景にあります。 また、民主党の多様性重視や社会的課題解決へのアプローチを過剰と感じる一部の人々にとって、トランプ氏の生活苦解消を掲げるポピュリスト的メッセージは、リベラルな価値観へのアンチテーゼとして響いたとも、考えられています。
テック業界とAI業界はトランプ新政権でどんな影響を受けるか
さて、ここまで選挙についてまとめましたが、ここからはトランプ氏就任によるテック及びAI業界への影響についてまとめていきたいと思います。 テック業界への影響 先にも述べましたが、トランプ氏の勝利によりシリコンバレーのテック企業で特に期待されているのが規制緩和です。彼は「政府の介入を最小限に」という考えを持ち、ビジネスフレンドリーな政策を重視する傾向があります。そのため、イノベーション分野の技術開発のスピードが加速することが期待されています。 具体的には、連邦取引委員会(FTC)や証券取引委員会(SEC)のトップ交代によって、合併・買収、暗号通貨、AIに関する規制も緩和される可能性があります。実際に選挙後はビットコインの価格は上昇し続けており、私の周りでもビットコインを保有する投資家は大喜びをしています。さらに、バイデン政権下で進行していたグーグルやアップルに対する反トラスト訴訟の方針が変更され、企業分割などの厳しい措置が避けられる可能性もある点には注目が集まっています。 反対に、テック業界の今後についてはマスク氏が影響力を持ちすぎているのではないかという懸念点も挙げられています。彼はテスラやxAI、ニューラリンク、スペースXなどの企業を経営しているため利益相反の問題も指摘されていますが、とりわけトランプ氏の様々な意思決定の場所にマスク氏がいることが注目されています。 例えば、反トラスト法違反で米政府から訴えられているアルファベットですが、CEOのスンダー・ピチャイ氏がトランプ氏に祝福の電話をかけた際、その横にはマスク氏がいたことが報じられています。これが何を意味するかについて、ニュースサイトThe Information は次のように報じています。 「グーグルのような大手テクノロジー企業が、独占禁止法の罰則やソーシャルメディアの検閲から、人工知能のデータセンター開発に役立つエネルギー関連の規則まで、あらゆることについてトランプ大統領と話し合う中で、マスクが来年、影響力を行使する可能性があることを示している」 マスク氏はグーグルが特定の検索結果を表示する方法にリベラルな偏向があると考え、それが「大規模な極左検閲」の一部であると批判したことで知られており、トランプ氏も同様の批判を展開し、当選すれば同社を刑事訴追するとまで脅していました。 結果的にトランプ氏が当選したため、荒波を立てないようにスンダー・ピチャイ氏からアプローチをしたとも考えられます。いずれにせよ、マスク氏の政治的信条や自身が経営する会社との競合関係なども踏まえ、彼の影響力が大きな意味を持つことが分かります。 AI業界への影響 では、AI業界に与える影響はどうでしょうか。 トランプ氏は米中冷戦をはじめとした国家競争力の観点からも、AIを、軍事利用や国家安全保障分野で推進するための政策を表明しており、AI研究開発やデータ活用への投資が強化される可能性があります。 また、バイデン政権下で施行されたAIに関する大統領令が撤回されることで、新興AI企業やスタートアップが自由に技術開発を進められる環境が整い、競争が活発化することが期待されます。 そして、マスク氏はxAI社を経営しているという立場から、AI産業におけるイノベーションを促進する方向でトランプ政権にアドバイスをすることが考えられます。AIによって引き起こされるさまざまな問題に対して損害賠償責任を追及されるような内容の法案は通りにくくなり、法的リスクを極限まで避けながら自由にAI開発ができるような土壌が整う可能性もあります。 こうした規制緩和により、AIの倫理問題やプライバシー侵害などのリスクが高まる可能性があります。 「AI界のゴッドファーザー」と呼ばれ、ノーベル賞受賞者として注目されたジェフリー・ヒントン教授は、かねてより「AIが人間よりも知能的に優れた存在となり、最終的に人間の制御を超える恐れがあるため、AIの開発を行う上では、やみくもな進化だけではなく倫理的側面も重要視されるべきだ」という旨の警鐘を鳴らしています。 こうした有識者の意見を取り入れ、レギュレーションとイノベーションのバランスを取ることも重要になると考えます。
石角友愛