「推しに褒められ、寿命が鶴ほど延びた」 清少納言は〝オタクの元祖〟 枕草子につづられたこと
ちょっと不思議な性癖の清少納言
水野:次の好きな段はどうでしょうか。 たらればさん:二つ目も下巻からになってしまったんですが……182段「病は」です。 胸、もののけ、食欲がない感じ。病といえばこれこれこれ……と紹介するんですが、清少納言はちょっと不思議な嗜好を持っていまして。 いきなり「髪の毛が丹精でふさふさしていて、栄養状態がよく、美しく見える上級の姫君が、歯をひどく病んで、顔を真っ赤にしている姿は風情がある」と書き始めます。 水野:ふ、風情がある…? たらればさん:ここまで詳細に書いているということは、この歯痛に苦しむ人、具体的なモデルがいたんだと思うんです。 誰なのかは分からないんですけど、ここに枕草子の特徴のひとつがあると思っています。清少納言は観察力があって表現力がありすぎるので、ちょっと変な話でもふんふんと読めてしまうという。 水野:たしかに、ちょっとおかしいのに具体的に想像できてしまって面白いです。 たらればさん:このすぐあとに、「そんな女の人が、気分が悪くなって伏せっているとき、吐くために起き上がって(邪魔にならないように)髪の毛を後ろ手で結んで吐く様子がいわたわしい」とか、そういう時にお見舞いのやり方で男の人の普段見られない趣向が出てくるよね、とか。「マニアックすぎない、それ?」という。 観察眼が鋭い人は、弱っていることもこんなに克明に書けるんだと思いましたね。 水野:(笑)。 たらればさん:いま日本中の枕草子のイメージが「美しい」だと思うので、「そればかりではない、もっと深くて味わい深いぞこの沼は」というのを伝えたくて。 きっと、「そうだな~」「分かるな~」だけでなく、「変だなぁあっはっは」とか「こ、この作者、ここまで言っちゃって大丈夫??」というところがあったからこそ、枕草子はここまで広がったのだと思うんですよね。 そういう意味で、清少納言は一流のエンタメ作家でもあるのだと思います。