トライアウトで元ヤクルト・西田明央が見せたサブプレーヤーの矜持 2安打4出塁よりも輝いたマスク越しの献身力
トライアウト挑戦の理由についてはこう語った。 「オファーがなかったらあきらめようと思っていたんですけど......まあ、最後かもしれないし。子どもにも見せられたらいいなと思って」 最後の打席で「パパー!」と叫んでいたのはもちろん、4歳の西田の子どもだ。西田はトライアウトで5打席に立ち、2安打2四球と気を吐くとともに、子どもに雄姿を見せることができた。 【トライアウトで見せた献身力】 5打席で4出塁と結果を残した西田だが、打席以外でも書いておかなければならないことがある。それは西田のキャッチャーとしての顔だ。 今年のトライアウトは、野手の参加者は13名いたが、そのうちキャッチャーは西田と前田研輝(元巨人育成)のふたりだけ。打者2人に投げれば出番が終わるピッチャーと違い、野手は守備をこなしつつ打席に立たなければならず、トライアウトの4、5時間はほぼ出ずっぱりの状態となる。 キャッチャーは特に人数が少ないため、休む時間は皆無に等しい。 「最後は両脚がつっていましたね。守備が終わってすぐに打席に入った時は、『もう振られへん』って思っていました」 そう言いつつも、西田は事前の班分けどおり、午前、午後と計16人の投手の球を受けた。なぜ両脚をつってまで、マスクを被り続けたのか。そこには、ピッチャーに対する西田の思いやりがあった。 「みんなそれぞれの覚悟や目標を持ってきているので、ブルペンキャッチャーの方に受けてもらうのもいいと思いますけど、選手が受けたほうがなんとかしてあげられるんじゃないかと思って......」 ピッチャーのほとんどが、別の球団に所属していた選手だ。西田はピッチャーが代わるごとにマウンドに歩み寄り、数十秒で打ち合わせをしていた。 「サインの確認と、何を投げたいのかを聞いていました。それぞれアピールしたいところが違うと思いますし、ピッチャーが投げたいボールを尊重しました。うまく結果を出せなかった投手もいたと思いますし、そこでもうちょっと力になってあげられたらよかったかなと」 西田は見ず知らずのピッチャーのアピールポイントをわずかな時間で把握し、少ないチャンスを最大限生かせるよう配慮していたのだ。それはプロの世界で、14年間キャッチャーというポジションを務めてきた西田だからこそ成し得たことだろう。