マツダが開発、運転が楽になる“4輪の1輪車”
マツダが取った電子制御のやり方は?
もう少しシステムを細かく見てみよう。電子制御のシステムは通常、センサー、コンピューター、アクチュエーターの3つで構成されている。変化をセンサーが感知し、それによってどう制御するかをコンピューターが決め、具体的な制御をアクチュエーターが行う。このシステムの場合、アクチュエーターはインジェクターだが、制御は噴射量を減らす方向だけ。つまり加速はさせず減速だけである。制御はブレーキを踏むか、アクセルオフでキャンセルされる。 5/100秒単位で制御ができるのは直噴だからで、ポート噴射方式ではここまで緻密な制御はできない。直噴とは燃焼室内に直接燃料を噴射する方式で高精度が特徴だ。ポートインジェクションとは吸気管の途中で燃料を噴射する方式で、流路を流れて行く間に燃料と空気が良く攪拌される反面、燃料の一部が吸気管に付着するため、精度に難がある。 いくら直噴の精度が高いと言っても、常識的に考えて荷重コントロールをやろうと思ったら、普通は制御精度と応答性に優れたモーター動力でやろうと思うだろう。それをエンジンでやるところがマツダらしい。 しかしながらトルク制御のために燃料噴射量だけを変えてしまうと、排ガスの問題が発生する。今回のシステムは通常の燃料噴射制御に統合的に組み入れられている。実は5/100秒単位の制御というのは触媒の応答性を考えた最適値でもあり、おそらくは G-Vectoring Control のために新たに高速化されたわけではなく、緻密な空燃比制御のために元々のシステムが持っていた応答速度だろう。 G-Vectoring Control が「ほとんど追加コスト無しで実現できる」というマツダの発言もそれを裏付けている。
マツダではこの G-Vectoring Control は「日常域から限界域まで、全域で効果を発揮」するシステムだと主張している。今回、限界域は試していないが、理屈で考える限りそれは理に適っている。日常域で起こらないことが限界域だけで発生するわけではない。それは本質的に地続きにつながっているのだ。 エンジン制御を利用してシャシー能力を底上げするという考え方は新しい。これまでエンジンならエンジン、トランスミッションならトランスミッション、シャシーならシャシーというように縦割りで部分最適化されてきたクルマの各パートが、相互に協調しあうことで、シナジー効果を挙げ始めたとも言える。モジュラー化が進むにつれて、設計の合理化面ではこうした全体最適化は加速しているのだが、ついに性能面でも今まで想像もして来なかった可能性が広がり始めたのである。背景としては産学共同開発に積極的なマツダの姿勢がある。以前書いた東京大学との共同研究による自動運転の新しい取り組みもそうだが、今回の G-Vectoring Control は神奈川工科大学の安部正人名誉教授と、山門誠教授の理論をベースに開発されているのだ。 さて、この G-Vectoring Control は実際の車両にいつ導入されるのかを、まだだいぶ先の事だろうと思いつつ尋ねてみた。しかし答えは意外にも「すぐやります」とのことだった。この夏か秋あたりにマイナーチェンジを迎える車種には、この G-Vectoring Control が搭載されることになるだろう。是非試して、その効果を体験してみて欲しい。新しい時代の始まりである。 (池田直渡・モータージャーナル)