マツダが開発、運転が楽になる“4輪の1輪車”
「5/100秒」「0.005G」の制御
マツダの新しいシステムは、こうした操作の労力を軽減してくれる。反力を感知して補正のためにハンドル操作が行われた時、瞬時に前輪への最適な荷重がかかるようにエンジン出力をコントロールして前輪の荷重を増やす仕組みだ。 垂直荷重によってタイヤのグリップが増大するから、ハンドルの効きが良くなる。しかもクルマが走っている間中、調整が行われる。ECU(コンピュータ)の演算は5/100秒(50ミリ秒)毎にずっと行われている。マツダのエンジニアによれば、噴射1回毎と言う高速制御を行って前輪への荷重をコントロールしていると言う。 仮に高速道路を巡航中のエンジン回転数が毎分2400回転だとすれば、5/100秒間のクランク回転数は2回転。4サイクルエンジンは2回転で1サイクルなので、噴射1回毎に燃料噴射量をコントロールできる。それによって得られる加速度のコントロールは0.005Gレベルという聞いたことも無い微細な精度だという。加減速や旋回加速度に用いられる場合、小数点以下は通常1桁だ。 例えば1.6トンのクルマの場合、タイヤにかかる圧力を計算上2キログラム単位で制御できることになる。1.6トンのクルマなら、4輪に均等に荷重がかかっていれば、1輪あたりは車重の1/4で400キロになる。400キロの0.005G(0.5%)は2キロになる。たったそれだけの荷重を足し引きするだけでハンドリングが変わるとはにわかには信じがたい。荷重とグリップの関係が理屈ではわかっているつもりの筆者も、実際に体験してみて驚いた。
低速でも体感できるそのハンドリング
その効果の程についてレポートしよう。今回は G-Vectoring Control のオンオフスイッチの付いたクルマでテストコースを走ったのだが、砂利道をわずか時速20キロで走っていても、このスイッチをオンにするとハンドル操作と横力の関係が変わった。操作から横力発生までのタイムラグが減り、なおかつリニアになる。要するに操作に対するクルマの反応が予測しやすくなるのだ。もちろん砂利道だけでなく、舗装の屈曲路を時速30キロで走っていても分かるし、直線路を時速80キロで走っていても分かる。ほんの数キログラムの荷重をタイヤにかけるかかけないかで、ハンドリングがレベルアップすることが実際に体感できた。 もちろん、制御のワンステップ(噴射1回あたり)は2キログラムでも、継続的な荷重コントロールが累積されて、トータルとしてはもっと大きく荷重が変わるのだろうが、少なくともドライバーはその加速度の変化を全く検知できない。違和感はゼロだ。減速を感じず、ハンドルのリニアリティが向上するだけなのだ。正直ちょっと騙されている様な気分だ。 開発では、この違和感のないセッティングにも意が払われたという。「リアルタイムで荷重コントロールするために、5/100秒でアクセル操作を行え」と言われても人間には不可能で、コンピュータならではの対応速度だ。だからと言って、人間とシステムの主従関係が逆転するようではいけない。そういう基本がきっちり守られている。 この効果によるハンドリングの改善代は決して劇的なものではない。連続して乗り比べなければなかなか分からないし、もしかしたらそれでも分からない人には分からないかもしれない。しかし、運転している間ずっと効果が継続するので、積み重なれば大きな差になる。例え違いが感じ取れなくても、長距離運転で累積する操作の頻度と量が変われば疲労は軽減するし、何よりあらゆるシーンで運転がしやすくなる。雨などでグリップが落ちた時にはさらに効果が増大する。ちょうどシャシー性能が向上しているような感じを受ける。だから多少鈍感な人でも、長時間運転後に「何だか分からないけどこのクルマはラクだ」と思うはずだ。近年流行のオートクルーズコントロール(ACC)より疲労軽減効果は高いのではないだろうか?