農作業は「不要な仕事」なのか?「キレるの禁止」な農場代表が「軽自動車を買って気づいたこと」
460個の改善点
作業場の机上に、一冊のファイルが広げられている。その上には、さまざまな予定が記されたホワイトボードが並び、それを囲んで数名のスタッフが相談を重ねていた。 「このファイルには、何月何日に何の作業をするか、1年間の予定がすべて書いてあるんです。冬の畑が使えない時期に、前年の改善点をすべて洗い出します。去年はおよそ460個ありました。それを1月から3月の間にひとつずつ潰していって、1年間何をするか、計画を練って予定表にまとめているんです。 そのなかから、直近10日でやることをマグネットシールで貼り出します。当然、天候や生育のコンディションに左右されるので、全てはスケジュールどおりに終わりません。みんなで相談しながら、今日やることを組み替える。『やること』だと強権的ですね、『この時期にやるかどうかを考える』という、備忘録的な意味合いで張り出していて、実際はこの通りに進まなくてもいいんです。 そして、できた作業はマグネットシールを『できたこと』の欄に移動していく。できなかったことではなく、できたことを増やして、夕方気持ちよく帰りたいじゃないですか」 一日の作業と進捗を網羅的に共有すれば、翌日に違うメンバーが作業に入っても、スムーズに引き継げる。再現性がない工数が多い農業に、一種の「見える化」をもたらすことで、安定したチームワークの強化にも繋がっている。 「例えばスナップエンドウを収穫するのは明日なのか明後日なのか、5,6人の担当者たちがずっとディスカッションしながら決めるんです。自分たちで考えながらつくる、自走式の農業だと、それぞれのフラストレーションが溜まりません。 のらくら農場では、怒る、キレるのを禁止しています。怒るのに時間とエネルギーを使うのは勿体ないですし、不満が生まれるのは組織やシステムにかみ合わない部分が生じているからであって、それをひとつずつ潰して、みんながスムーズに仕事できる方法を導き出してあげるほうがいいのかな、と。 僕が技術のトップにいるのではなくて、植物生理や土のメカニズムがあって、それに人間がぶら下がっているっていうイメージです。だから新しく入ってきた人の意見も、それが作物や土にとって正しいとみんなで判断すれば、採り入れています」