農作業は「不要な仕事」なのか?「キレるの禁止」な農場代表が「軽自動車を買って気づいたこと」
2台ずつある農具の秘密
作業場では、スタッフがほうれん草を手で小分けし、袋詰め作業にあたっている。萩原さんは「入ります」と一言告げ、同じく袋詰め作業に手を動かしはじめた。 萩原さんは71年に千葉県松戸市で生まれ、大学卒業後は大手メーカーで営業職として働いていた。「働き方改革」という観念が生まれるのは遥か未来のことだった当時、萩原さんは猛烈に働いた末に体調を崩し、生活環境を見直すなかで農業を志した。 埼玉県・小川町の農場で11ヵ月有機栽培を学び、佐久穂の地を「あっさりと」見初め、98年に就農。最初は夫婦2人で始めたものの、課題は積もる一方で人手は足りず、思い描いたような農業にはならないと我に返ることもあったという。 「サラリーマンだったころは部下なんていませんでしたからね。チームをマネジメントするとは、習ったことも考えたこともなかったです。 私が農業を志した時は、有機農法の師匠のところに住み込みで、無給で学ぶような時代でした。今、丁稚奉公のようなやり方では人は集まりません。きちんと経営や化学を学んで、チームを回しながら利益をあげられるようにしなきゃいけない、と思ったんです」 過度な利益重視は内外の軋轢につながるが、理想だけで仕事は回らない。萩原さん自身、農業は「地味な作業の連続」だという。だからこそ、システマティックなチーム運営でカバーし、休耕期には漬物や加工食品の製造などを拡げ、チームを維持する。それでいて、今シーズンのチームはほぼ「ノー残業」で仕事を進められているというから、驚きだ。
農業はもっと自由でいい
畑の隅に備え付けられた道具小屋には、耕運機や手押しの播種機など、同機種の農具が2つずつ並んでいる。「これが、うちの特徴なんです」と萩原さんは歯を見せる。 「新機種やハイスペックの農具に『買い替える』のではなく、同じ機種を2つ買っています。これは、新しく来た人に誰かが使い方を教えてあげるためです。チームで農業をやっていくうえで、『ある人だけができる』のは、理想的ではありません。リーダーに頼るのではなく、誰かが教え、教えられることで視野が広がることが大きいと思います」 理想に結果はついてくる。のらくら農場の19年「オーガニック・エコフェスタ」で開催される栄養価コンテスト(一般社団法人日本有機農業普及協会主催)では3部門で最優秀賞を獲得し、総合グランプリを受賞。2020年はケール部門で二連覇を果たした。また加工品においても、「ICC FUKUOKA 2023」のフード&ドリンクアワードにてグランプリを受賞するなど、日本の有機栽培に新たな風を巻き起こしている。 「この前、軽自動車を買ったんです。50代の僕からしたら、軽自動車って数十万円で乗れるものだと思っていたところ、今は200万円とかするんですよね。でも、乗ってみると色々な装備が付いていて、なかでも安全装置はスゴくて、実際に事故防止にも貢献している。値段が高くなったぶん、発展もしているんですね。 その時、青果はなんでこういう発展の仕方をしなかったんだろうと思ったんです。いろいろなものの値段が上がっているなかで、野菜はずっとプライスタグだけの競争をしている。利益率の高い野菜だけを作ろうと思えばできるけど、多分そうするとすごくつまらない農業になっちゃうんです。もちろん利益は上げなきゃいけないけれど、『農業はもっと自由でいい』ということを忘れないように仕事しています」 「自由な」農業で作られたのらくら農場の野菜は、栄養価が高く、そして美味しい。後編〈「葉を触れば栄養がわかる」長野・佐久穂町「のらくら農場」がたどり着いた「面白い農業」の作り方〉では、その秘訣に迫っていこう。 取材・文/田嶋裕太
マネー現代編集部