道路埋め尽くす自転車、学生の夜間集団サイクリングに神経とがらせる政府 中国
香港(CNN) 彼らは冷え込む深夜に50キロ近くもペダルをこぎ、大挙して押し寄せる。バイクシェアのサービスを利用して中国中部・河南省の鄭州市から史跡と小籠包で知られる開封市を目指す夜間サイクリング。現地の学生の間で一大ブームを巻き起こしたこのトレンドは、観光促進を目指す地元自治体も当初は後押ししていた。 【画像】道路を埋め尽くした自転車の集団 しかしあまりの人気ぶりに手が追えなくなった今、当局は警察を配備したり自転車レーンを閉鎖したりして熱狂を抑えようと躍起になる。何万台もの自転車のために両市を結ぶ交通はマヒ状態。開封市では乗り捨てられた自転の山が道路をふさぎ、鄭州市の通勤客は帰宅に使う自転車を見つけるのに苦労する。 当局は交通の乱れと安全上の懸念を理由に、自然発生的な集会の取り締まりに乗り出した。 だが地元当局を動揺させたのは、大勢の学生が動員され、組織化されて公の場に集結する光景だったらしい。背景にあるのは若者の運動と中国共産党との歴史的な関係や、体制の安定に固執する姿勢だった。 8日金曜の夜、両市を結ぶ幹線道路の鄭開大道は、警察が秩序を保とうとする中、自転車に乗った若者でいっぱいになった。SNSに投稿された動画によると、自転車が5車線を全て埋め尽くした区間もあった。 週末にかけては鄭州、開封の両市が自転車を阻止しようと鄭開大道の自転車レーンを閉鎖した。 鄭州市のバイクシェアサービス3社は共同声明を出し、鄭州市から出た場合は自動的に自転車をロックすると発表した。 学生がSNSに投稿した情報によれば、鄭州市では学生のサイクリング参加を阻止するために、キャンパスから離れることを制限したカレッジや大学もある。 自然発生的な若者の集まりは、政治性があってもなくても、中国当局に深い疑念を抱かせる。 1989年春、北京の大学生は自転車に乗って天安門広場に集まった。この民主化要求運動は、中国軍による流血の弾圧で終わった。 2022年、習近平(シーチンピン)国家主席の厳格な新型コロナ規制に抗議して中国の大都市や大学のキャンパスに集まったのも、ほとんどが若者だった。 しかし開封市へのサイクリングに政治的動機はなさそうに見える。中には中国国旗を掲げたり国歌を口ずさんだり中国共産党のスローガンを叫んだりする学生もいて、一人は台湾統一要求の横断幕を掲げていたものの、ほとんどは単純に楽しんでいる様子だった。 始まりは今年6月。深夜に小籠包が食べたくなった鄭州市の女子大学生4人が、シェアバイクを使って開封市へ衝動的な旅に出かけたことだった。 この旅がたちまち話題になってまねする鄭州市の学生が激増。「鄭州からシェアバイクに乗って開封で朝食を。青春とは楽しむこと、熱狂すること、無限のエネルギーを持つこと」。そんな学生の投稿は25万近い「いいね」を集めた。 開封市はこのブームに乗じて観光客を増やそうと、観光地への入場料を無料にするなどして学生たちを歓迎した。 国営メディアも学生たちの旅を「青春の情熱」の表れと賞賛した。 「行く途中で自分みたいな人たちとたくさん出会った。旗を持ったり音楽をかけたりしている人や、みんなで一緒に歌う人もいた」。河南大学の学生は人民日報(英語版)にそう語っている。「上り坂に差し掛かると、みんなが互いを激励した。お互いに知らない人だったけれど、同志のように感じた」 ところが夜間サイクリングの規模が爆発的に大きくなり、他都市にも広がり始めると、自治体が一転、取り締まりに乗り出した。 こうした熱狂や取り締まりに対してインターネットでは意見が分かれた。学生たちが開封市に押し寄せて住民にトラブルを引き起こしていると非難する声や、地元自治体がこのトレンドを推奨する以前に学生の大量流入に備えるべきだったとする声が噴出している。 ただ、何時間もかけて開封市へ出かける動機は単純な楽しみだけとは限らない。景気が減速する中で、就職への不安や不確実な未来から逃れるひと時とする学生もいる。 最終学年の女子学生は国営紙の取材に対し、就職活動に追われて「底なしの穴」にはまったような気がすると打ち明けた。 そんな時にSNSでこのトレンドのことを知り、11月3日に友人と開封市へ夜間サイクリングに出かけた。 「夜間サイクリングは冒険みたいな気分だった」という女子学生は、音楽を聴いたり友達とおしゃべりしたりしているうちに不安は消えていったと話し、「その瞬間、このまま自転車をこぎ続けられたらと思い、もう現実には戻りたくないと思った」と振り返った。