QualcommのSnapdragonはどこへ向かうのか 鍵を握る「車載システム」への領域拡大
モバイルとは大きく条件の異なる車載コンピューティングの世界
このようにモバイル出身のSoCやソリューションが車載システムへの進出を続々と進めているわけだが、一般的なコンシューマーデバイスのビジネスとは大きく異なるポイントが2つある。1つはパフォーマンスの部分で、車全体のデジタル制御を行うため、スマートフォンやPCなどと比べても倍以上の性能が要求されることになる。 「堅牢(けんろう)な安全性は第一として、車載向けには非常に革新的なマルチコアソリューションが導入される。これは自動車で要求される同時実行に非常に重要だからだ。スマートフォンやPCであれば通常は1つのタスク、場合によっては2つや3つのタスクで済むが、社内ではドライバーが複数の用途に活用する上、同乗者や後部座席の乗客もいれば、SoCに対する要求はさらに高まることになる。オーディオなどもそうだが、これらの要求を適切な信頼性と品質で同時に提供できる必要がある」(Granger氏) 実際のところ、現在のADASではドライバーはほぼ運転にかかりきりで、地図やセンサーによる周辺情報の収集など、運転に関するシステム補助を受けるのが精いっぱいだ。一方で、同乗者や後部座席の乗客は移動時間をずっと車内で過ごすわけで、必然的にインフォテインメントの重要性が高まる。高音質のオーディオシステムなどもその一環であり、アプリの同時実行や動画再生のみならず、本来であればスマートフォンやタブレットが複数台必要な用途を1つのシステム(Snapdragon Digital Chassis)をカバーする必要があり、必然的に相応のパフォーマンスがシステム内に盛り込まれることになる。 そしてコンシューマーデバイスとの違いでもう1つ重要なのが、耐用年数だ。これはIoTの分野にもいえるが、スマートフォンを含む一般的なコンシューマーデバイスの買い換えサイクルがかつては2~3年、近年では4~5年程度が平均といわれるが、IoTなどの組み込み機器の世界では10年以上というのも珍しくもなく、特に中古市場の存在する自動車の世界では「10~15年程度を見据える必要がある」(Granger氏)という。 ITの世界の進化速度を考えれば10~15年前のシステムなど陳腐化を免れない。その一方でユーザーは製品を使い続け、販売したメーカー自身もそのフォローを続けなければならないため、コンシューマー家電の世界の常識を自動車や産業の世界に持ち込むことは困難だ。 そこでハードウェアのメーカーとしては、性能のマージンをある程度取りつつ、残りはSDV(Software Defined Vehicle)で対処することになる。Teslaなどが典型だが、近年の最新のADASを搭載した自動車の世界では、ソフトウェアのOTA(Over The Air)によって適時機能強化や改修が行われる。逆にいえば、SDVのようにスマートフォンやPCのようなソフトウェアが動作する自動車においては、定期的なソフトウェアアップデートがない限りセキュリティ的にも脆弱(ぜいじゃく)であり、同時に中古市場や長期間利用などを考慮したときのサポートがないに等しい。 QualcommはGoogleとの複数年契約を2024年10月23日(米国時間)に発表しており、Snapdragon Digital ChassisにおけるAI対応コックピットの開発を容易にするためのフレームワークを用意している。こうした両社の提携には、同ソリューションを利用してIVIやADAS搭載の自動車を市場に出すメーカーを支援する仕組みも組み込まれており、必要なアップデートの準備やパッチの提供などもまた、この仕組みを通じて提供されることになる。 ベースとなる技術はスマートフォンやPCと一緒であっても、耐久性や信頼性、そして長期サポートの面で大きく異なるのが車載やIoTの世界だ。これは同時に、いちど取り組みを開始した以上、それだけ長期間のサポートをパートナーとともに提供し続けなければいけないことも意味しており、Qualcommにとっては業績を伸ばすための新しいフロンティアであると同時に、大きな役割も担わなければならないことだ。
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