「桃の木」で中国料理の新しい形を作り続けてきた小林武志さんが「KOBAYASHI」で次なるステージの扉を開けた!
こちらは“シン・KOBAYASHI中国料理”を象徴する一皿です。「干し貝柱や金華ハムなどを炒めて作るXO醤は油がおいしいんです。それを活かすにはアヒージョが合うのではと長年考えていました」と、伊勢海老や蛤と旬の野菜を自家製XO醤と太白胡麻油でゆっくり火入れします。
捌きたての伊勢海老は噛むと押し返されそうなほどの弾力。海老本来の甘みにXO醤のうまみが加わり、この上ない口福を味わうことができます。
XO醤は具材をつまみにしたり、料理のアクセントにしたりして具材を食べることが一般的ですが、食してみると小林さんの言う、“油がおいしい”という理由がよくわかります。最高級の具材から出たうまみそのものの油は、イメージするギトギトしているものとは別物、口当たりもサラリとして極上の味わいです。
こちらは小林さんの名物料理です。地鶏の「もみじ」を使って作った白湯スープは10秒もすると薄い膜が張ってしまうほど濃厚です。これだけコクがあるのに喉越しはスルスル。どうしたらこんなテクスチャーに仕上げられるのか、一口で誰をも笑顔にするスープです。
ストレートの細麺は熱々のスープの中でも最後までのびずにおいしく食せます。かん水を入れずにここまで色も艶も美しい麺にはなかなか出会えません。スープを絡めた麺が喉を通るとその豊かな味わいに言葉が出ず、ただ頷くばかりです。
同じエスプリの異なる二つの世界を堪能する
10品のコース料理を食べ終えて感じるのはとても体に優しいこと。「食材には“おいしい瞬間”があります。その前後ももちろん使えるのですが私はベストなタイミングを見極めて食材を使用しますし、中国料理の要とも言える油も辛みもその食材にとって必要な量しか使わない」と、食材の最高のポテンシャルにこだわり、培った技術でまだ見ぬその先へと導きます。
小林さんの料理理念は、桃や季(すもも)はものを言うわけではないが、美しい花を咲かせ、おいしい果実を実らせるので、自然と人が集い、そこに蹊(こみち)ができるという意味の「桃李不言 下自成蹊」に由来しています。「きちんと手をかけておいしいものを作り続ければ、どれほどシンプルに見える料理であっても、その奥に潜む真髄と魅力はお客様に伝わるものと信じています」と言うように、ここで供される過去と現在の料理には同じエスプリが一貫して通っています。