「出張したら赤字だよ」「都内は素泊まりで2万から」…。ホテルの歴史的高騰を背景に、従業員の「賃上げ」は進んでいるのか? 中には「中堅社員に渋い会社」も。
月刊ホテレスが2024年7月に発表した「ホテリエの賃金実態調査」によると、部長職以上の役職者の残業が月45時間以上、年360時間以上との回答が多く、ストレスを抱えている状況がある。 また同調査によると一般社員の場合、30代、40代であっても、年収は400万円が水準だ。人材獲得のために初任給が上がる傾向がある一方で、働きざかりの中堅世代が厳しい状況に立たされているのだ。 この点について、アパグループは「初任給を含め若手により厚く昇給した部分はありますが、管理職を中心に中堅社員にも手厚くしました」と回答。一方、コアグローバルマネジメントは「昇給は毎年個別評価にて行っているため、年齢層による特徴はない」としている。
■人材に投資できる企業が生き残っていく? インバウンドは今や、日本経済を支える重要な存在となっている。前述した「第24回観光立国推進閣僚会議」によると、2024年1-3月期の国内旅行消費額は約4.8兆円と、第1四半期の消費額として過去最高を記録した。 宿泊料の上昇は、単なるコストアップではなく、持続可能な観光立国を実現するための投資原資と捉えるべきなのかもしれない。ただしその原資を、いかに人材育成と待遇改善に振り向けていくかが重要なのだろう。
管理職の長時間労働の是正や、中堅社員のキャリアパス整備など、より包括的な人材戦略が求められている。 今回、アンケート調査を得た2社は、業界内でも働く人への還元が大きいことで知られる会社であり、また中堅社員への配慮も見られたが、人材への投資に消極的な企業も存在する。 ホテル業界を支えるホテルマン、そして、その中枢である中堅世代が報われる業界でなければ、この好況も長くは続かないだろう。 宿泊する側としては、決して嬉しいことではない宿泊料の高騰だが、ホテル産業にとってはポジティブな変化も生まれつつあるのも事実だ。引き続きその動向を注視していきたい。
笹間 聖子 :フリーライター・編集者