「出張したら赤字だよ」「都内は素泊まりで2万から」…。ホテルの歴史的高騰を背景に、従業員の「賃上げ」は進んでいるのか? 中には「中堅社員に渋い会社」も。
業界では長年、「他業界に比べて給与が低い」と言われており、それに伴う人手不足も深刻な問題になっている。 実際、厚生労働省が2024年3月に発表した「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、「宿泊業、飲食サービス業」の平均賃金は25万9500円と、全産業の中で最も低い水準にとどまっている。 ただ、これはあくまで宿泊業、飲食サービス業全体の平均値で、独自に調査したところ、変化し始めているビジネスホテルもあった。
全国に展開する「ドーミーイン」「共立リゾート」をはじめ、学生寮・社員寮「ドーミー」、高齢者向け住宅「ドーミーシニア」なども運営する共立メンテナンスは、2024年5月から、総合職・事務職・ホテリエ・ウェルフェア・スペシャリストの正社員2132名を対象に、昇給率6%(定期昇給を含む)のベースアップを実施している。 業界最大手であり、全国に745ホテルを展開するアパグループからは、賃金に関するアンケート調査への協力を得られた。同社は、2023年6月に1万1000円、2024年6月に2万2000円のベースアップを実施している。
昇給の理由はもちろんインバウンド需要の高まりなどによる好業績だ。2023年11月期の連結決算での経常利益は、約552億円と過去最高を更新。そこで、人材の獲得とつなぎ止めのために昇給を行った形だ。 関連記事:圧倒的王者のアパホテル、4つの「ありえぬ数値」 「2000万人」「108%」「600人」「52期連続」 初任給についても、2023卒の初任給で1万円、2024卒の初任給で2万円引き上げ。こちらは採用競争力の強化が目的で、金額は、異業種を含めた他社の初任給の傾向から判断したという。さらに、2025卒の初任給は、2024年の昇給結果を踏まえて、プラス2万8500円が決定している。
アパは、業界内でも突出して堅調な業績を維持しているグループだ。 そんな同社に、ホテル業界が他業界に比べて給与が低い傾向と、人手不足についても尋ねたところ、「賃上げ原資を確保して給与水準を高めていくことで、結果として、さらなる業績の向上を実現し、経営の善循環を図っていきたい」と回答した。 実際、社員からは昇給に限らず、福利厚生の拡充など、さまざまな施策による社員への還元に対し、喜びの声が上がっているという。また離職率も改善しているそうだ。