「eスポーツ・ワールドカップ」優勝候補が告白する"プロになるまでの苦悩"
そんな折、19年に新しいeスポーツ団体が産声を上げた。「GAMING TEAM いぶし銀」。現在、翔が所属する「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」の前身に当たる、東北を活動拠点とするアマチュアチームだ。 「縁があり、そのチームが当時新設したばかりの格闘ゲーム部門に加入することになりました。『プロになる』ということを現実の目標として意識して、アピールのために大会にも積極的に出場するようにしました」 数々の大会の中で、翔にとっての分岐点となったのが、21年7月に開催されたカプコン公式大会「SFL:Pro-JP 2021 トライアウト大会♯3」だ。 一般社団法人「日本eスポーツ連合」(JeSU[ジェス]*6)の公認大会であり、優れた成績を残せば同団体から発行されるプロライセンスを取得できる可能性が大きく高まる。ここで翔は見事優勝を果たした。 (*6)将来的なeスポーツの五輪採用に向けて、国内のeスポーツ団体が統合、2018年に発足した組織。eスポーツに関する調査やプロライセンスの発行、選手の育成や支援などを行なう。今年6月11日、日本オリンピック委員会(JOC)は、同団体を準加盟団体として承認した 「ここで結果を残せば道が開ける。優勝を狙うって本気で思ったのは、この大会が初めてだったかもしれません。めちゃめちゃプレッシャーだったけどなんとか優勝して、プロライセンスを獲得できた。そのことでチームの格ゲー部門の風向きが大きく変わったんです」 それはアマチュアチーム「いぶし銀」が「格ゲーのプロチームをつくる」ということを意味していた。 21年11月、アメリカ・ラスベガスで開催された「RED Bull Kumite Las Vegas(レッドブル クミテ ラス ベガス)」のゲスト選手に招待されるなど着実に実績を積み上げていった。 「僕は、プロライセンスを持つ社会人プレイヤーとして活動しながら『専業のプロゲーマーになりたいけど、プロとしてやっていけるんだろうか』とずっと悩んでいました。でも、もうその頃には専業としてやっていく決意を固めていました」 23年6月のスト6発売を絶好のタイミングと見た翔。「ここで踏み切らなければ、もうチャンスはない」と同年4月に専業プロへの転向を宣言した。すでにプロeスポーツチームとして出発していた「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」の拠点である福島市飯坂町(いいざかまち)に移住。そこにはもう迷いはなかった。 そこからの活躍は前述したとおりだ。 「小学生の頃、僕はバスケ部にいて、将来はバスケ選手になって世界中を飛び回るなんてことを夢見ていました。今、それとはかけ離れたプロゲーマーをやっていますけど、世界各国あちこちのゲーム大会に遠征している。子供のときに思い描いた生き方から、そんなに離れていないな、なんて思ったりします」(敬称略) ●翔(Kakeru) 1997年生まれ、愛知県東海市出身。一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)公認のプロライセンスを保持するプロゲーマー。プロeスポーツチーム「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」所属。IT系の会社に勤める兼業プロだったが、『ストリートファイター6』発売を控えた2023年4月に専業へと転向し、その後、国内外の大会で数々の実績を残す 撮影/井上たろう ©CAPCOM