「eスポーツ・ワールドカップ」優勝候補が告白する"プロになるまでの苦悩"
「当時、プロはスパⅣAEのネット対戦をPS3ではなく『Xbox 360』でやっている、という話を聞いたんですね。Xbox 360のほうが、ラグ(ゲーム画面と操作の間に生じる、ほんのわずかな時間差のこと)が少ないという噂だったんです。お年玉でゲーム機本体とそれ対応のスパⅣAEを買い直し、さらにはコントローラーも新調して。当時の僕にとってXbox 360は"格ゲー専用機"でした」 ■「プロ」への思いはくすぶっていた 13年頃、不登校気味だった中学時代とは打って変わって高等教育を受ける年齢になったときには「普通に学校には行っていた」という。 「高校に行かないのは、就職とか将来的なことを考えたときに、さすがにヤバいなって。けっこう人並みの危機感みたいなのを抱くようになったんですね(笑)。情報系の高等専門学校(2年制)に通うことになりました」 その頃は、「プロゲーマー」になるという道はあまりに非現実的なものに思えた。 「当時、プロゲーマーになれる人は本当にごくわずか。なれるものならなりたいけど、なれるとは全然思いませんでした」 ただ、格闘ゲームへの熱はずっと冷めなかった。そして「強くなりたい」という思いはちょっとだけ独特なスタイルを生んだ。 「大会には全然出ませんでした。大会に出るのは強くなるためには効率が悪いんじゃないかと。対戦の待ち時間や移動時間がストレスというか、その時間もトレーニングや対戦に注ぎたかったんですね」 高専を卒業し、IT系の会社に就職。社会人として多忙な日々を送る中で「格闘ゲームから少し離れていた時期もあった」という。 「でもある日、職場がある名古屋の大須の近くのお店(*4)で『ストリートファイターⅤ』の対戦会をやっているのを知ったんです。そしたらいつのまにか毎週1回は通うようになって。週末には小規模な大会が開かれて、遠方から強いプレイヤーがやって来て、自分の中でモチベーションが高まっているのを感じました」 (*4)「eSportsカフェ&バー コミュニティスペース スカイ」。名古屋在住のプロゲーマーがよく利用する店として知られている 強いプレイヤーたちと、オンライン、オフライン問わず切磋琢磨(せっさたくま)する日々、やがてプロになりたい、という思いが少しずつ心中でもたげてくるのを感じた。 「16年頃、『忍ism Gaming(シノビズム ゲーミング)』(*5)というeスポーツチームがプロの育成枠の募集をしていたので、応募したんです。でも、選考会に参加するためには東京に何度も行かなくてはいけなくて、そのとき名古屋で高専生活を送っていた僕は、結局断念しました。 そのときの悔しい思いがずっと残っていて。そういうプロに近づける機会があれば、もう一度、手を挙げたいなと思っていたんです」 (*5)東京・東日暮里を拠点に活動するプロeスポーツチーム。『ストリートファイター』シリーズの現役トッププレイヤー「ももち」選手がオーナーを務める。2021年よりSFLに参戦。今シーズンも強豪の一角としてリーグ戦を戦う ■思い描いた未来とはちょっと違ったけれど