「アーチェリー競技は真のバリアフリー。車いすだから負けたという言い訳は通用しません」世界No1を目指す上山友裕
生涯の友となる末武コーチによってレベルアップ!
この“引き戻し”により、今度は真剣にのめりこむことになった。上山は大学4年生のとき、一人の選手と知己を得ていた。現在、パラアーチェリー日本代表チームのコーチである末武寛基氏だ。氏は当時、上山の自宅近くの近畿大学寮生にいたアーチェリー部の1年生だった。のちにロンドン五輪のプレ大会に日本代表として出場するなどしたトップクラスの選手だ。 「卒業後も友だちづき合いが続いていたんですが、アーチェリーを再開してから、ちょっと技術面で相談したら、自宅まで教えに来てくれたんです。“今から行きますわ~”って(笑)。本当にありがたいことでした」 「近畿大にはシドニー五輪で金メダルを獲ったキム・チョンテというコーチがいて、そのハイレベルな教えを受けた末武コーチから、ぼくが教わるわけです。アーチェリーのそもそもからして違っていて、今までの自分は何だったんだという感覚でした。大学で毎日練習していたときよりも、月に何度か末武コーチに教わっていたこの期間の方が点数が上がったくらいです。海外の大会で負けたときも、『末武どうしよう』と。なんでも相談してたら、自然とコーチのようになってくれて、今ではナショナルチームのコーチになってもらっています」 末武コーチとの出会いがなかったら、自分はパラアーチェリーで勝てる選手にはなってない、と振り返る。
世界選手権制覇で見つけた、勝つための“極意”
さらに大きな転機となったのが、末武氏の紹介で約1年間、直接キム・チョンテコーチの指導を受けたことだ。 「全部変えてくださいと頼み、弓の持ち方や矢のつがえ方など、基本から徹底的に指導してもらいました。10年の癖を直すのは大変だったけど、指導を全部受け入れました」 虚心坦懐、一から覚え直す覚悟で上山はキムコーチの教えを実践することに集中した。そして2023年の世界選手権でついに初優勝を果たす。 この経験から上山は、アーチェリーの極意に気づいた。 「勝ちたい気持ちを消すのが大事」 アーチェリーは繊細なスポーツで、精神の安定が求められる。勝ちたいと思うと、どうしても体に力が入り、外れやすくなるという。 「欲をなくす。僕は欲望の塊だから難しいけど、試合に臨むときはあえて『この試合どうでもいい』と自分に言い聞かせています」