若者の「不詳の死」をどう防ぐのか――遺族らが語った兆候と背景
娘の死の理由を探して
4年前、娘を亡くした恵利子さん。自宅の2階にある娘の部屋には、賞状や娘の描いた絵がきれいな額に収められ、壁に飾られている。ふと窓の外に目をやれば、近所の小学生たちがにぎやかに下校している。 「子どもの姿は、ずっと避けて見ないようにしてきたんです」 娘の死に、自責の念を抱えてきた恵利子さん。少しずつ、心の内を明かしてくれた。 娘の有希さんは、当時14歳の中学2年生。幼いころから絵を描くことが得意で、イラストレーターを夢見ていた。以前、絵を描く仕事をしていた恵利子さんの影響もあったという。壁の真ん中に飾られた絵は、新緑に彩られた中学校の正面玄関が見事に描かれている。 「これが学校で描いた絵の最後になっちゃったんですけど。娘の絵を見るのが楽しみでした」
娘を亡くして4年。いま思い返してみると、気になることもあったという。亡くなる1カ月ほど前の夕方。仕事から帰ってリビングに入ると、有希さんがお気に入りのぬいぐるみに囲まれて、じっと座っていたことがあった。慌ただしい夕飯前の時間。ふざけているのかと思い、早く片付けるよう促した。しかしその後ろ姿は、いま思えば誰にも言えないことをぬいぐるみに話して聞かせていたようにも見えたという。 さらに、ケーキ屋に2人で行ったときのこと。恵利子さんが「次の有ちゃんの誕生日のときも、すごいケーキそろえてあげるよ」と話しかけると、返答がなかった。そのときは聞こえなかったのかと思ったが、もう自分の人生の先を見ていなかったのかもしれないという。 「あのときにどうして、どうしたの?ってもっと声をかけなかったのかなと思って。それも悔しい記憶です。何回も何回も考えるんですよ。本当はこうしたら生きてたんじゃない?っていうね。でももう戻せないですからね」
親友の死と向き合ってきた
親からは見えなかった娘の苦しい心の内。それを知る人がいる。奈美さん(18)。毎年、命日に家に来てくれる。小学校のころからの有希さんの親友だ。この日も、仏壇に手を合わせた。母・恵利子さんと昼食をとった後、話題は生前の有希さんのことに。奈美さんと有希さんは夜になるとチャットで語り合っていた。有希さんはときおり将来について、思い悩んでいる様子だったという。 「一度だけ私が『もしかして有ちゃんって自殺願望とかあるの?』っていうのを聞いたことがあったんですね。亡くなる1年ぐらい前。『あるよ』って言われて……。いっぱい、いろんな言葉をかけたんですけど……。何かただ将来に希望が持てないって感じだったかなって思います」 有希さんと同じように絵が好きだった奈美さんはこの春、大学に進学した。友人の死と向き合い続けて4年。いま、自殺で亡くなる若者が増えていることに胸を痛めている。 「有ちゃんにも楽しい世界はあるよと言っていたんですけど、あまりうまく伝えられなかったのかなって、ずっと自分を責め続けています。やっぱり中学生の世界ってすごい狭いから、そこだけが全てと思っちゃったのかな。いまもし死ぬことを考えている人がいたら、自殺するということは(本人が)思っている以上に周りで苦しむ人が多いということは、知ってもらいたいと思います」