ヒョンデ・アイオニック5N 詳細データテスト ドライバーズカーEV誕生 重さを忘れるハンドリング
はじめに
電気自動車は、短期間に大きく進歩したが、ポルシェやBMWが参入してさえ、シンプルで手に負えないが成熟した楽しさをもたらすものはいまだに存在しない。攻めがいのあるB級道路を走りに行きたくなるようなクルマがEVの世界には欠けているが、ヒョンデがアイオニック5Nでその座に挑もうとしている。 【写真】写真で見るヒョンデ・アイオニック5Nとライバル (17枚) 15年前、ヒョンデがパフォーマンスカーを投入し、そのクラスの楽しさを再定義すると謳っても、誰も相手にはしなかっただろう。しかし過去10年間に、このブランドは野心的な歩みを進めてきた。欧州でも屈指の技術者を雇い入れ、そのチームに新しいことをする自由を与え、R&Dを少しでも楽しいものにしようとしたのだ。 最初の成果は、Nと銘打ったサブブランドから送り出された、ガソリンターボのFFホットハッチだった。i30Nとi20Nは、完成度こそ低いものの、クイックに動き、俊敏で、ごまかしがなく、ハードに走らせてほしいという貪欲さを感じさせた。エンスージアストがヒョンデに目を向けるきっかけになったクルマで、冗談まじりに『コーナーのやんちゃ小僧』と呼ぶN初のEV登場へもつながっている。 もちろん、もし2235kgのアイオニック5Nが本当にコーナーで暴れ者ぶりを、それもできる限りいいかたちで見せるのなら、誰も売り文句に疑問を呈しはしないし、ゲームチェンジャーにさえなるだろう。このクロスオーバーが650psのツインモーターを全開にしたら、どれほどの速さを見せるのか、そして宣伝どおりの実力を示してくれるのか。確かめてみたい。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
通常モデルに比べ車高は20mm低く、フェンダーは51mm広い。また、控えめながらNモデルとわかるディテールが加えられ、凄みのようなものも感じさせるルックスとなった。ホイールは21インチ。前後にはグロスブラックのスプリッターとディフューザーを備え、オーバーハングが少し伸びている。各部の赤いピンストライプが加えられたボディは大きく、占有面積はだいたいBMW M3と同じだ。 プラットフォームは、ヒョンデとキアが用いるE-GMPで、キアEV6GTと共通。しかし、Nには最新の、エネルギー密度の高いニッケル・マンガン・コバルト式リチウムイオンバッテリーが採用され、84.0kWhの容量で447kmの走行が可能とされている。最高2万1000rpmに達するモーターを前後に1基ずつ積み、短時間ながらランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテに匹敵する合計650psを発生する。 この最高出力の重要な要素が、リアユニットの2ステージ式インバーター。モーターに届く前の電流を高め、出力を引き上げている。また、パフォーマンスと信頼性を安全に発揮するため、大容量のオイルクーラーや改良版のバッテリー冷却装置、拡大されたフロントエアインテークが導入された。 タイヤは275幅のピレリで、接地面積を拡大。ドライブラインも強化され、リアには電子制御LSDが装備される。ボディは、通常モデルより溶接スポットを42カ所増やし、構造用接着剤を2.1m塗布している。トレッドが通常モデルより大幅に広げているのも驚くことではない。 2235kgという公称重量は、通常モデルの2モーター仕様を190kgほど上回るが、ハイパフォーマンスEVとしては特別重いわけではない。ポルシェ・タイカン4Sスポーツツーリズモと同じくらいだが、出力もキャビンや荷室の広さもヒョンデのほうが上だ。しかも、新型BMW M5に比べれば、200kg軽いのだ。 独自性の強いアイテムとしては、N e-シフトシステムがある。シフトチェンジを仮想的に作り出すデジタルデバイスで、フルオートモードでも、ステアリングホイールに据え付けたふたつのシフトパドルによるマニュアル変速も可能だ。 前後のトルク配分は、11段階から選択できる。自社開発したN仕様の回生ブレーキシステムは、0.6Gの減速Gを発生する。ヒョンデによれば業界最高の値だといい、コーナーインで使うにも十分な強さだ。