アジア太平洋地域で急拡大する生成AI支出、年間成長率ほぼ100% 普及の鍵は「教育」か?
最新調査が示す生成AIの普及に必須の要素「信頼」と「教育」
IDCの予想通りに100%近い成長率が達成されるのかどうか。企業は普及に向けいくつかの障壁を乗り越える必要がある。 デロイトが2024年4月に公表した最新レポートは、企業が生成AI導入を加速する際の課題を明確にしつつ、それを乗り越えるヒントを示している。 このレポートは、生成AIを導入する先駆的なグローバル企業約2,000社を対象に実施された調査の第2弾。同調査では、多くの企業が生成AIのポテンシャルを現実のものにするため取り組みを本格化させている状況が浮き彫りとなった。 生成AIから目に見える成果を求める声が高まるなか、企業は生成AI導入の規模拡大(スケール)に注力しているのだ。成果を示すには、単なる実験やパイロット、コンセプト実証(PoC)を超えて、本格的に広域展開することが求められる。大規模な導入を進めることで、利用者層を拡大し、生成AIの成果を可視化しやすくするためだ。一方、拡大にあたり、戦略やプロセス、人材、データ、テクノロジーなど、あらゆる側面で課題に直面している現状も浮き彫りとなった。 とりわけ重要な課題は、生成AIへの「信頼(trust)」の構築と、生成AIが労働者のスキルや役割、雇用に与える影響への対処だ。調査対象企業の多くが、これらの問題への取り組みはまだ初期段階にあると認識している。 信頼に関する課題は、生成AIの出力が高い品質と信頼性を担保できるかどうか、そして、生成AIが仕事を奪う存在ではないことを社員に理解してもらうことの2つに大別される。これらの信頼問題は、パイロットやコンセプト実証の段階においては障壁にはならなかったが、スケールする段階では大きな障壁になっているという。 同調査では、スケールしつつ成果を示すには、専門性(知識・スキル)を向上させることが重要であると示唆されている。社員を含め企業全体の生成AIに対する専門性が高まれば、生成AIの可能性と課題を知ることになり、それが信頼構築につながり、障壁を取り除ける可能性が高くなるからだ。 たとえば、生成AIの専門性レベルが「非常に高い」、または「高い」と回答した企業では、他社と比べてはるかに積極的に生成AIの導入を進めており、より大きな成果を達成していることが明らかになった。具体的には、「非常に高い」と回答した企業の73%が「速いペース」または「非常に速いペース」で生成AIを導入しているのに対し、「ある程度の専門性」にとどまる企業ではわずか40%だった。また、「非常に高い」企業は平均して8つの部門(ビジネス機能)のうち1.4部門で生成AIを本格的に導入しているのに対し、「ある程度」の企業では0.3部門にとどまっている。 専門性レベルが高い企業ほど、生成AI関連の教育を積極的に進める傾向も浮き彫りとなった。たとえば、「非常に高い」専門性を持つ企業は、AIリテラシーの向上(47%)とキャリアパスの再設計(38%)に注力すると回答している。ここから、教育を通じて社員の知識・スキルが高まったことで、高い信頼が生まれ、最終的にスケールし、成果を生み出していると推察される。 以上、IDCとデロイトの調査結果から明らかになったアジア太平洋と世界の生成AI市場の現状、そして生成AI導入をめぐる企業の取り組みについてお伝えした。教育やトレーニングにより、生成AIへの信頼度をどれだけ高められるかが、市場成長の速度を左右することになりそうだ。
文:細谷元(Livit)