ポーランド映画の現在地<2>製作支援の公的枠組み・個の尊重…「共助」の仕組みが文化につながる
ポーランドの取り組みが、映画そのものの可能性の拡大にもつながっているとも言える。
映画人を代表する組織の役割
ポーランド映画人協会は、1966年に設立された同国最大の映画関係者の組織で、現在の会員は約2200人。監督、プロデューサーをはじめ、脚本、撮影、編集、美術など「映画の現場で働く人々すべて」が含まれる。俳優協会ができる前は、俳優も対象としていたという。
同協会は、映画人を代表する組織として、映画製作の環境整備や、創作者の権利保護にも積極的に取り組んでいる。インターネット配信時代の著作権使用料徴収システムの整備にも力を注ぐ。前述の通り、2005年の映画製作支援の枠組み確立に関しても、法案の成立に向け、キャンペーンを展開するなど大きな役割を果たした。
「シネマトグラフィー・アクトがなかったら、ポーランド映画は存在しなくなっていただろう」と、ポーランド映画人協会の広報担当、グジェゴシユ・ヴォイトヴィチ氏は言う。
政治・経済・社会状況の影響
ただ、映画製作支援の枠組みはあっても、政治・経済・社会状況の変化の影響は不可避だ。同協会副会長で、映画監督のカロリーナ・ビエラフスカ氏は、「今、作り手たちは製作資金確保に苦労している」と言った。
コロナ禍で大きく落ち込んだ国内興行収入は、復調傾向にあるものの、コロナ前の水準にはまだ戻っていない。近年はインフレによる景気の減速もあった。
また、今回のグディニアでの取材では、2015年から23年末まで8年間、強権的な右派ポピュリズム政党「法と正義(PiS)」が政権を握ったことが、映画の製作環境に影を落としたという声を聞くことも多かった。
グディニアの映画祭で今年最高賞を取った、アグニエシュカ・ホランド監督の「人間の境界」が、その果敢な内容ゆえに、昨年の公開時に前政権から非難されたことには前回も触れた。ホランド個人に関してSNSに攻撃な書き込みをした閣僚もいたといい、それに対して同協会は抗議書面を送付。また、彼女に対するヘイト犯罪を警戒して、協会の予算で護衛を付けた時期もあったという。