「ネオン」の灯りはなぜ人を惹きつけるのか…札幌から那覇まで日本全国の夜の街を歩いてわかったこと
ネオンの灯りはなぜ人を惹きつけてきたのか
2020年の年明け、そんな記憶と共に、コロナが始まる直前の歌舞伎町でネオン探しを開始した。ネオンによる看板はLEDのものに比べると圧倒的に少なく。そんな猥雑な街の姿はとっくに過去のものとなっていたことに衝撃を受けた。僕が知る歌舞伎町の姿はとうの昔に消え去っていたのだ。高校を卒業してからも、何度も歌舞伎町には脚を運んでいたが、ネオンにまつわる変化にはまるで気が付いていなかったことを知った。まるで自分がタイムスリップして現代に降り立ったかのように感じたのを覚えている。 撮影を始めた直後から、街はコロナ禍に見舞われ、ネオンを掲げたお店の多くが閉店していく様を目の当たりにすることとなった。昔から続いてきたネオンを掲げるお店の多くが閉店に追い込まれていく一方で、コロナ禍も一年を過ぎた頃から、新たにオープンする店でネオンが付けられるのも、数多く目撃した。 撮影開始から2年後、インタビュー150ページ、東京周辺の夜の街を照らすネオンのある風景の写真450ページという分厚い本が出来上がることとなった。懐かしいネオンから、新たなネオンへ、という意味を込め、その本のタイトルを『NEON NEON』と名付けた。 ネオンのガイドブックと名付けられた『NEON NEON』完成後も、僕はまだネオンのある風景を探して夜の街を歩いていた。『NEON NEON』では、ネオンを解説しなくては、という意識もあり、ネオンのアップを多用したり、写真が説明的になり過ぎたかもしれない、という思いもあった。そんな心残りもあったのと同時に、ずっと抱えてきた疑問への答えを探していた。「ネオンの灯りはなぜ人を惹きつけてきたのか。そこには人々のどんな想いや感情があったのか」、ということに写真を通して答えを出すことだった。そして、東京周辺だけでなく、各地のネオンからその答えを探ろうと、撮影を再スタートした。 僕はネオンの光質自体に答えがあるような気がしていた。夕暮れ時、一日の狩りを終えた祖先の人類が、峠の向こうに見えてきた我が家の囲炉裏から漏れる灯りを目にした時、湧き上がったであろう感情が、僕たちのDNAには刻まれている。そう仮定するなら、ネオンの灯りは現代人の無意識の奥底にある、アクセス不能だが確かに漂う曖昧な記憶を刺激してきたのかもしれない。そう強く思うようになった。