「ビフィズス菌」で「認知機能」がアップし、「脳の萎縮」が抑制された…「腸内環境」と「認知症予防」の関係を示した「衝撃の研究結果」
「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」という経験がある人は多いのではないだろうか。これは「脳腸相関」と呼ばれるメカニズムによるものだ。腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの機能を調整するしくみがあり、いま世界中の研究者が注目する研究対象となっている。 【画像】「日本人はアメリカ人より発症率が高い」…「大腸がん」の「驚くべき事実」 腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているという。いったいなぜか? 脳腸相関の最新研究を解説した『「腸と脳」の科学』から、その一部を紹介していこう。 *本記事は、『「腸と脳」の科学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
腸と記憶力の関係
日本では、現在85歳以上の4人に1人が認知症と診断され、高齢化とともに身近な病気となっています。日本の有病率は残念ながら世界1位で、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症するのではないかと推測されています。 記憶力の低下が主な症状である認知症も、腸と関係があることがわかってきています。本章では、腸内マイクロバイオータと記憶力との関係を見ていきましょう。
ビフィズス菌の摂取で認知機能が改善した
記憶力に関係する病気には、認知症の前段階といわれる軽度認知障害というものがあります。日常生活への影響はほとんどない程度の物忘れが主な症状で、日本では約400万人の患者がいるとされています。そのうち1~3割の人が、発症後1年以内に認知症に移行すると推定されています(※参考文献4-1)。 残念ながら、現在、軽度認知障害や認知症を完治させるための有効な治療法は存在しません。そのため、世界中の研究者が、認知症の予防法や、発症前や超早期に体内で増加する物質(バイオマーカーと呼ばれます)を発見するために技術開発を進めています。 これらの研究の中で注目されているのが、腸内マイクロバイオータと腸内マイクロバイオータが産生する腸内代謝物です。 例えばマウスに抗菌薬を投与して腸内マイクロバイオータを除去すると、マウスの認知機能が低下することが報告されています(※参考文献4-2)。 ヒトの場合、認知症患者と健常者の腸内マイクロバイオータを比較すると、認知症の発症によって腸内マイクロバイオータの組成が大きく変化し、それに呼応して腸内代謝物の組成も変化していました(※参考文献4-3)。 認知症の患者では、バクテロイデス門に属する細菌類が少ない傾向にあり、腸内代謝物であるアンモニアが増加する一方、乳酸が減少していました。 ただし、腸内代謝物である乳酸が、どのようなしくみで記憶や認知機能に影響を与えているのかについては、現時点ではまだ明らかになっていません(※参考文献4-4)。