科学の教え、「もっと人に助けを求めよう」、助けを求めないのはむしろ「誰かの損」
私たち人間はそういうふうにできていると研究は示している
近頃では、隣の家に砂糖を借りに行く時代は過ぎ去ったように見える。便利なアプリは、友人に頼らなくても小さな問題を解決してくれる。ライドシェアサービスを利用すれば空港まで送ってもらえるし、ギグワーク・アプリ(単発・短期の仕事を発注するアプリ)を利用すれば重要な会議中に愛犬を散歩に連れて行ってもらえる。 ギャラリー:人類が地球を変えてしまったと感じる、空から撮った絶景 写真23点 しかし、これらのツールは便利な反面、「人間関係を犠牲にする」おそれもあると指摘するのは、米スタンフォード大学の心理学研究者で、人工知能(AI)を利用したメンタルヘルスケアを提供する新興企業フローリッシュの共同創業者シュアン・ジャオ氏だ。 最近のさまざまな研究によると、コロナ禍の間に米国人のネットワークの規模は縮小していて、2020年に社交に費やされた時間は2003年に比べて減少した。アメリカンライフ調査センターが2021年に実施した調査によると、米国人は以前に比べて友人を頼らなくなっているという。例えば、プライベートで問題を抱えたときに最初に友人に相談すると回答した人は、1990年には26%だったが、2021年には16%に減っていた。 日本政府が2023年に実施した「人々のつながりに関する基礎調査」では、孤独感があると回答した人が約4割に上った。 世界では今、孤独が流行病のように蔓延している。専門家たちは、コミュニティーに背を向けることは人間の本性に反するだけでなく、健康にも悪影響を及ぼすかもしれないと言う。
人間がコミュニティーを求める理由
私たち人間は、ほかの人間と協力したり付き合ったりする能力を生まれながらに持っている。こうした能力は、今から350万年以上前の初期人類アウストラロピテクスの時代まで遡れる可能性がある。 アウストラロピテクスが他の霊長類から分かれて熱帯雨林を後にし、乾燥していて捕食者だらけの環境で暮らしはじめたとき、大きな集団が必要になったと、米カリフォルニア大学デービス校名誉教授である生物学者のピーター・リチャーソン氏は言う。 氏は、アウストラロピテクスは生き残るために血縁関係のない人々と協力することを学び、こうした社会的なネットワークが、戦略や武器を生み、手強い捕食者を狩ることさえできる集団の形成を可能にしたと考えている。 アウストラロピテクスの母親たちは、二足歩行をするようになって出産の困難と危険が増したため、出産時にグループのほかの母親たちと助け合うようになったと、進化生物学者のレスリー・ニューソン氏は考えている。 母親たち以外のメンバーも、グループ内で受け入れてもらうために赤ちゃんの教育や育児を手伝ったと、進化人類学者のサラ・ハーディ氏は主張する。赤ちゃんは複数の養育者を意識し、家族以外のメンバーを観察し、交流し、気に入られることを学んだ。これが「協力のための舞台を整えた」とハーディ氏は言う。 心理学者は、このような私たちの進化が、社会的に排除されたり孤立したりすることを苦痛に感じる理由だと言う。実際、心の痛みを処理する脳の回路は、体の痛みを処理する脳の回路を基礎にしている。参加者に仮想のボールをパスさせる実験では、途中からボールを回してもらえなくなった参加者は体の痛みを感じていた。 「社会的な排除の痛みは、排除を引き起こしているものを正せというシグナルです」と、米サンフランシスコ州立大学の実験心理学者で計算神経科学者のガウラブ・スリ氏は言う。