科学の教え、「もっと人に助けを求めよう」、助けを求めないのはむしろ「誰かの損」
人助けの喜び
それでも、「知人に助けを求めることは、人間関係を危うくするリスクをはらんでいるため、不安に思う人もいます」と、社会心理学者で米コーネル大学組織行動学教授のバネッサ・ボーンズ氏は指摘する。氏の研究によると、有料でサービスを受けることで、こうした不安が幾分取り除かれるという。友人に電話をかけて頼み事をするより、人を雇う方が心理的なハードルが低いということだ。 モチベーションに関する「自己決定理論」によれば、人間は「自律性」と「有能感」と「関係性(社会的なつながり)」を求めるという。ジャオ氏は、ギグワーク・アプリは私たちに「自律性」や「有能感」は与えてくれるが、親切や助け合い、関係づくりなどの機会を失わせるおそれがあると指摘する。 ジャオ氏は、人は私たちが思っている以上に喜んで助けてくれるものだということを、米シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス行動学教授のニコラス・エプリー氏との研究で明らかにした。また、現代の米国人は昔の米国人と同じくらい見知らぬ人に協力するつもりがあるという明るい結果を示した研究もある。 なぜだろうか。「人とつながったり、人を助けたりするのは、気持ちが良いことだからです」とジャオ氏は言う。「そうして、親切が人から人へと伝わっていくのです」 エプリー氏は、「実のところ私は、自分が助けを必要としているときに人に助けを求めないのは、むしろ誰かに損をさせることなのだ、と考えるようになりました」と言う。「自分を助ける機会を人に与えないことは、彼らが良い気分になる機会を奪うことになるからです」
文=Annika Hom/訳=三枝小夜子