「物言う株主」から売却を迫られる日本企業の超高額アートは誰のもの?
失われた美術品はどこに?
では、「失われた」美術品はいまどこにあるのか。知られざるそれらの貴重な美術品は、厳密に言えば上場企業の所有物である。そして、創業家やその子孫などの自宅に持ち込まれたのではないかと、ファンドや美術専門家はみている。 申告されることなく、企業が所有する日本各地の倉庫に眠っているはずだ、という。東京にある野村グループ本社を訪れた要人は、役員室のテーブルについたとき、片方の壁にモネの作品が、もう片方の壁にシャガールの作品が飾られているのを目にするかもしれない。丸紅商事を訪れたお偉方が、ボッティチェリ作「美しきシモネッタ」をちらりと目にできる可能性もある。 米国に拠点を置くベテランのファンドマネージャーは、「日本のテレビ局に行ったとき、役員専用フロアと称した『美術館』にたまたま足を踏み入れたときのことは決して忘れないでしょう」と話す。「法律上の規制があり、支配権が変わっても保護されるので、頭の固い経営陣は優れた美術品を好む傾向がありました。会議で気まずい雰囲気が流れたあと、経営陣がエレベーターまで案内してくれたとき、セザンヌの作品の前で思わず立ち止まりました」 日本政府と東京証券取引所はともに、コーポレート・ガバナンスの早期改革を命じている。また、透明性の拡大が求められ、物言う株主が勢いづいている。そんななか、資産としての美術品を巡るこうした議論が起きたことで、日本では企業とその創業家、社会、株主のあいだの関係性の見直しが迫られている。痛みを伴う見直しだ。
Leo Lewis