「物言う株主」から売却を迫られる日本企業の超高額アートは誰のもの?
バブル時代に買い漁った「失われた美術品」
日本が隠し持つ実にやましい秘密のひとつ。それは、きわめて貴重な美術品の所有権をあいまいにし、創業家と上場企業間の資産を常習的に混合して受け継いできた富を保護するという、上場企業による搾取だ。 何十年も放置されてきたこの秘密が、ついに表面化した。川村記念美術館の事情を白日の下にさらしたのは、企業価値向上の触媒アクティビスト(物言う株主)として知られる外資系投資ファンドのオアシス・マネジメントだ。とはいえ、この一件は止めようのない大きな流れの一部にすぎない。 「日本企業は企業価値が何十億ドルと言われました。胡散臭い価値であるがゆえに、胡散臭い行動に出たのです」。そう話すのは、日本株専門の運用会社カナメキャピタルのトビー・ローズだ。ファンドマネージャーのローズは、東京株式市場に埋もれている美術コレクションを発掘するのも仕事のひとつで、美術コレクションの存在をより深刻なガバナンスの弱みを示す兆候だと考えている。 特に違法だというわけではなく、日本市場があいまいな線引きについて、どういうわけか寛容であるにすぎない。ローズのような美術コレクションの専門家は滅多にいないが、ガバナンスの不備を見つけ出してそれを改善すればリターンが得られるかもしれないということで、多くのアクティビストやバリューファンドが日本に注目している。 日本企業は80年代後半から90年代前半にかけてあれこれ美術品を買いあさったが、どれもがこれみよがしだったわけではない。しかし、時代という油を得た火遊びは語り草となった。日本の有名企業経営者は、ゴッホ作「ひまわり」、ルノワール作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」、ピカソ作「ピエレットの婚礼」などの名だたる名作を、衝撃的な価格で落札した(まもなく破綻した企業もなかにはあった)。 しかし、バブルが弾けて不況に突入した90年代後半には、そうした美術品がひそかに不良債権と化し、不名誉にも流出に至ったケースも少なくない。ゴッホ作「医師ガシェの肖像」をはじめとする一部の美術品は、債権者の手に渡ったのちに所在不明となり、何年にもわたって捜索が行われる世界的ミステリーになった。 とはいえ、日本企業が所有する超有名絵画がすべて売り出されたということでは決してない。日本各地の企業には、バブル絶頂期に買い集められた有名な美術品がいまも、限られた人しか足を踏み入れられない役員室などにひそかに残されている。 美術商界隈で、こうした実情を堂々と語ってもいいという人はなきに等しい。日本でガバナンスが強化され、上場企業が透明性向上を迫られたことで、「失われた」美術品が非流動市場へと大量投入され、その後ろ暗い過去がいっそう露見する可能性があるとみているのがその主な理由だ。