史上初「アニメの教科書」が発売、アニメーター向けの検定も実施 キーマン・西位輝実氏に聞く、検定実施の理由とは
なぜ、今アニメ業界に教科書と検定が必要なのか
11月9日、アニメーションの業界団体・一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)が、第1回「アニメータースキル検定」を開催した。この検定は、アニメーターに向けて行われる史上初の全国規模の技能検定となる。また、そのテキストとして出版された教科書は、アニメーターになりたての新人が最初に学ぶ“動画”、すなわち絵の動かし方の基礎を手ほどきした一冊で、発売直後に重版がかかるほど評判になっている。 【写真】「輪るピンクドラム」「呪術廻戦」などで知られる超人気アニメーター・西位輝美氏
今や日本のアニメ、漫画、ゲーム、音楽などを含むコンテンツ産業は12兆円規模に達するという調査もあり、そのうち、アニメ産業は3兆円ともいわれる規模に成長している。そんななかでNAFCAが検定を実施する背景には、ここ数年、未曽有のアニメブームの影響でアニメの制作本数が増加している一方で、新人アニメーターに対する教育が行き届いていない現状を問題視しているためだという。 事実、アニメ制作の現場は長年にわたって人材不足であり、コストカットを図るべく動画の制作を海外に丸投げするケースも多くなった。そのため国内では、基礎的な技術を身につけないまま、いきなり重要な工程を任される新人アニメーターが増加している。こうした状況に危機感を覚え、検定を発案し、教科書を作り上げたのは第一線で活躍するアニメーターたちであった。 今回、キーマンであるアニメーター・西位輝実氏にインタビューを実施。西位氏は「輪るピングドラム」や「ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない」といった数々の作品においてキャラクターデザインや、「呪術廻戦」などで総作画監督などを手掛ける人気アニメーターである。実施に至るまでの経緯と、今後のアニメ業界の課題について聞いた。
“動画”を教わっていないアニメーターが増えた
――アニメータースキル検定はどんな検定なのでしょうか。 西位:アニメーターになりたての新人が、本来であれば最初に習う知識をすべて詰め込んだものです。このセクションを動画と呼びます。動画を担当するアニメーターを動画マンと言い、動画マンによって清書された絵が、皆さんがスマホやテレビで見ているアニメの絵なのです。新人が担当する最初のセクションではあるものの、非常に高度なスキルが必要で、動画専門のアニメーターや、それらを統括する動画監督という役職もあるほどです。 ――なぜ、そんな大事なセクションを教わらなくなったのでしょうか。 西位:コストカットの目的と人手不足の影響で、動画のセクションで新人を育成する時間がとれなくなったためです。また、アニメ会社にも「動いて見えればいいでしょう」と動画のクオリティを軽視する人がたくさんいます。私は、画面に出る絵を描く重要な仕事である動画こそ、国内で人材を育てなければいけない大事なセクションだと考えます。数年動画を経験したうえで、原画や作画監督、キャラクターデザイナーなどの役職を務めるのがかつては一般的でした。 ――検定を立ち上げたのも、アニメ界の現状に対する危機感がきっかけなのですね。 西位:実際、動画を教わっていないアニメーターが増えてきた頃から、現場では今までは当たり前だった基礎のルールが崩壊し、リテイクに追われ、クオリティの低いアニメが目に見えて増えてきました。私がそう話すと、「いやいや、アニメのクオリティは上がっているじゃないか」「“神作画”のアニメは多いですよ」と言う人がいます。それは人気漫画が原作になっている、誰もが知るような作品に限った話であり、二極化が進んでいるのが現状です。