史上初「アニメの教科書」が発売、アニメーター向けの検定も実施 キーマン・西位輝実氏に聞く、検定実施の理由とは
自分の技能や絵のレベルがわかるのは大きなメリット
――いわゆる作画崩壊が頻繁に起こっている作品もあるわけですね。現場ではどのような対応が取られているのですか。 西位:ここ数年、フリーランスだった新人を社員にして育成して行こうという流れができつつあります。これは歓迎する流れですが、社員として採用されることが難しい人、例えば地方を離れられない人などは、やはり教えてもらう機会はないままです。10年ほど前から、予定日まで完成させることができずに再放送を放映したり、人知れず表に出ないまま制作が中止になったり、制作発表の後に続報が出ないままひっそりと消えてしまうタイトルが後を絶ちませんでした。 ――人知れず、消えてしまっている作品もあると。 西位:10年ほど前から、予定日まで完成させることができずに再放送を放映したり、人知れず表に出ないまま制作が中止になったり、制作発表の後に続報が出ないままひっそりと消えてしまうタイトルが後を絶ちませんでした。そういった作品の制作会社も、請け負ったからにはいいものを作ろうと頑張っているはずです。しかし、優秀なアニメーターは原作が人気のあるタイトルに集中する傾向にあるため、人材が集まらず、思ったような作品を作ることができないのです。そういった状況ですから、社員、フリーランスに関わらず、一人でも多くの優秀なアニメーターを育てることは、業界にとって急務だと考えます。 ――おっしゃる通りですね。優秀なアニメーターが育てば、現場でリテイクに悩まされることも少なくなります。 西位:動画のセクションの育成が国内でなされなくなったために、新人が覚えるべきアニメづくりの基礎や知識が共有されず、そのためリテイクに現場が圧迫されるようになりました。現場は疲弊し、このままでは日本のアニメの高度な技術が継承できず、沈没していくと予想されます。希望があるとすれば、アニメーターになりたい人が、たくさんいるということです。そこで、昔のように現場で育成する余裕がない以上は、広く基礎をシェアするには検定しかないだろうと考えました。 ――どんな業界でも技術の継承が問題になっていますが、アニメ業界の危機感は相当なものだと感じます。 西位:しかし、わたしは動画の専門職ではありません。悩んでいたところ、縁があってベテランの動画監督の江山梨恵さんにお会いしたのです。動画の知識の共有と人材を育てる検定の話をしたら「協力します」と言っていただき、一気に動き出した感じですね。NAFCAもこの検定を柱に立ち上げた団体です。 ――自分の技能や絵のレベルがわかるということは、新人のアニメーターにとって大きな意味がありますね。先日、検定が実施されましたが、採点はどのように行うのでしょうか。 西位:検定は、チェックバックをつけて返す予定です。客観的に第三者に見てもらえるのはとても良いことだと思います。20年前は、アニメ業界に入ること自体は実はそれほど難しくなかったんです。「明日から来て」と言われることも多かった業界ですから。ただ、会社で育成してもらえるかは運次第でした。私の場合、先輩方にしっかりチェックバックをもらえたので目指す方向がわかりやすかったのですが、新人が自分のアニメーターとしてのレベルを客観的に見るのは難しいのではないでしょうか。そういった人たちにとっても、この検定は有効だと考えます。