まさか振り込め詐欺だとは!親に頼ったことのない息子の窮地を救うため、カードで銀行から150万円を借りてしまった
◆息子のためにとATMへ直行 電話の声に従い、私は銀行に向かった。何度も「他人に知られたくない。急いで」と言うので、《振り込め詐欺に注意!》と警告するポスターもスルーしてATMへ直行。 息子の口座に振り込もうとしたが、「時間がないから直接、弁護士の口座に振り込んでほしい」と言われた。振り込み手続きがうまくできないので銀行の係の人を呼ぶと、電話の向こうで「やめて! みっともないから大きな声で話さないで」と声を荒らげる。 冷静になった今なら、よく言うわ、と思うのだが、あのときは矛盾だらけの話に気づけなかった。 お金を振り込むと、その場でまた電話がかかってきた。 「銀行は振り込め詐欺に慎重になっていて確認に時間をかけるので、振り込みが途中で止まっている。このままだと示談がパーになって多額の請求をされそうだ。あと50万円振り込んでほしい」。 あのとき、「騙されているんじゃないの」と聞いた私の愚かさよ。相手は「あなたを騙しているんですよ」と薄ら笑いをしていただろう。
◆騙されていたのは、息子ではなく私 追加の50万円を振り込むと、電話がぴたっと止まった。かけ直しても、「お客様のご都合でおつなぎできません」というメッセージが流れる。家に帰って次男にメールを送ると、即、「どうしたの?」と電話がかかってきた。 「それは振り込め詐欺だね。え! 150万円払ったの? すぐ警察に連絡して」という次男の声を聞き、私は(ああ、息子はあんなことやってなかったんだ)と安堵し、夫と警察署に行って被害届を出した。 翌日は休日で、長男一家と次男が我が家に集まることになっていた。食事を終えて雑談が始まると、私は「振り込め詐欺で150万円の被害に遭いました」と告白した。長男もそのお嫁さんも驚くばかり。 カードローンのことを話すと、長男は「お金は口座に入れておくから。カードはすぐに処分してね」と言い、次男は50万円を渡してくれた。 息子たちは相談しながら、私たちが二度と被害に遭わないように電話の設定変更などをして、「気にしなくていいんだよ」と言って帰っていった。 それから数日、身体は宙に浮いた感じで食欲もゼロ。65歳を過ぎると、こうも頭が働かなくなるの? 非常事態に対応できなかったら意味ないじゃないの、と思いもしたが、少しずつ自分を取り戻し、息子たちが一言も非難せず用意してくれたお金を返すために働こうと決めた。 幸い身体はいたって健康だから、どんな仕事でも働こうと思う。ずっと専業主婦だったので、お金を稼ぐ厳しさにこれから初めて直面するのは覚悟している。 この歳になって、なんで詐欺師のために緊張感を持たなければならないのかと思うと、やり場のない怒りがこみあげる。 しかし、普通に生活して家庭を守ってきた主婦がよき人生であったと幕を下ろすためには、責任を果たすことが必要だ。下劣な詐欺師に、心意気だけは負けてはいられない。
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