公開35年でも色あせない4Kレストア公開「バグダッド・カフェ」 今だからこそ響くもの
名曲が担う希望の光
名作には名曲がつきもの、という持論を裏付ける一作でもある「バグダッド・カフェ」。不意に流れてくるテーマソング「calling you」のインパクトは強烈で、この曲で映画を認知している人も多いのではないだろうか。ジェベッタ・スティールのボーカルが、砂漠の街に降り注ぐ。calling you・・・・・・「あなたを呼んでいる」と繰り返す歌詞が、冒頭とエンディング、そしてキャラクターによって違うメッセージ性を持つのも面白い。 実際に歌ってみると、サビ頭、ピアノとぶつかるメロディーラインに違和感を抱く。この若干不安定な部分こそが癖になる要素であり、これが私が作品に感じた焦燥感や孤独の正体だったのか、と納得した。それと同時に、大半が低い音程で語るように歌われるなか、サビの一節だけで歌われる高音と異国の情緒を漂わせるハーモニカの音は、作品に差す希望の光のような役割も担っていると感じた。 私が一番好きな場面は、終盤の大繁盛のマジックショーのシーン。怒鳴ってばかりだったブレンダがみせる笑顔とソウルフルな歌声。無駄な練習に思われていたサロモのピアノも大活躍。ヤスミンとブレンダの間に生まれた信頼関係や、モーテルを取り巻く個性的な人々がそれぞれの輝く場所を見つけている様子がハートフルでありながら泣けてしまう、素晴らしいパートだった。
主人公の姿に重ねた大切な友人からのメッセージ
大人になってからの友達・・・・・・といえば、4年ほど前に出会ったAちゃんのことを思い出した。当時彼女はまだ大学生で、真面目すぎて少し不器用な愛らしい子だった。お菓子作りや絵を描くことが得意で、彼女が描いた花のポストカードを手にした私に「それはネモフィラです。花言葉は、どこでも成功。菜央さんにぴったりですね!」とにっこり教えてくれた。その言葉は、自信を無くしそうになった時いつも私を勇気づけてくれるお守りになっている。その後Aちゃんは就職し住む場所は離れてしまったが、部屋に飾ったポストカードを眺めてはいつも彼女の幸せと健康を願っている。困った時いつでも私を呼んでほしいと思うのは、私にとって彼女が大切な友達だからだろう。 異国の地でも周りを巻き込みながら自身の魅力を発揮したヤスミンの姿に、ネモフィラの花言葉「どこでも成功」の理想的なかなえ方を見た気がした。SNSが発達する陰で心のつながりが薄くなるのを感じていたが、そんな時代だからこそ、ふと顔が思い浮かぶ人たちを大事にしていきたい。多くの人に愛される不朽の名作は、この先もきっと観客の心を潤いで満たし続けるだろう。 © 1987 / Pelemele Film GmbH - Pro-ject Filmproduktion im Filmverlag der Autoren GmbH & Co. Produktions-Kommanditgesellschaft München - Bayrischer Rundfunk/BR - hr Hessischer Rundfunk
波多野菜央