公開35年でも色あせない4Kレストア公開「バグダッド・カフェ」 今だからこそ響くもの
友達ってなんだろう。大人になるほど、その言葉に違和感を持つようになった。スマホを開けば知り合いの生活を簡単にのぞくことができるが、果たして私たちは友達なのか?と聞かれたら自信がない。相手からすれば、私は取るに足らない存在かもしれないし……。事あるごとに友達申請を促すSNSに辟易(へきえき)する私は、少し考えすぎなのだろうか。そんなモヤモヤを一掃してくれた、映画「バグダッド・カフェ」。 【写真】見る人の心に染み込んでいく癒しの象徴 「バグダッド・カフェ 4Kレストア」ポスターの給水塔 35年前、ミニシアターブームの火付け役となった名作が4K修復され、この冬再び日本のスクリーンに帰ってくる。日本公開当初を知る人によると、独特な色彩と楽曲の衝撃はとても大きかったそうだ。まだベルリンの壁が東西を分けていた頃の西ドイツのインディーズ作品が海を超え、今も世界中の人に愛されていること自体にメッセージを感じる。多様化が進む今だからこそ、響くものがあった。
渇いた心をいやす存在
アメリカ旅の途中、傲慢で荒々しい夫との夫婦げんかの末に一人で車を降りることになったドイツ人女性・ヤスミンは、アメリカ西部のモハベ砂漠にたたずむモーテル兼カフェ「バグダッド・カフェ」にたどり着く。いつも不機嫌でいら立っているモーテルのオーナー・ブレンダは、砂漠にそぐわないヤスミンの姿に不信感を抱きつつも宿泊を許可する。事務所の大掃除やカフェの手伝いをするヤスミンの行動をおせっかいに感じ警戒心を強めるブレンダだったが、周囲の人々と打ち解けていくヤスミンに徐々に心を開いていく。その後、実はマジシャンであるヤスミンの手品が客に大ウケし、カフェは大繁盛! ふたりの仲もどんどん深まるが・・・・・・。年齢も国籍も生き方もさまざまなキャラクターたちが織りなす、砂漠に生まれた出会いと友情を描いたヒューマンドラマである。 初めは、肩を上げて歩くブレンダの憤慨ぶりに「さすがに怒りすぎだろう・・・・・・」と思っていたが、それも無理はなかった。仕事ができない怠け者の夫、サル。母にお金をせびり男たちと遊びほうける娘・フィリス。実の子である赤ん坊の面倒も見ずピアノの練習ばかりしているブレンダの息子・サロモ。客がいない時はカウンターの奥で眠りこけるバーテンのカヘンガ。不がいない家族と、働かない従業員。彼らにいつも怒鳴っているブレンダを中心にただよう荒んだ雰囲気と、明らかに歓迎ムードではない状況にも動じず自分のペースを乱さないヤスミンの包容力は、日々すり減っていく私たちの心も包み込んでいく。この作品には欠かせないモチーフであるモーテル敷地内の大きな給水塔は、登場人物の渇いた心をいやすヤスミンの存在とリンクする。