高安が軽快な動きで北勝富士をはたき込んだ（撮影・萩原悠久人）

大相撲秋場所9日目（16日、両国国技館）元大関で東前頭15枚目高安（34）は北勝富士（32）をはたき込み、5連勝で7勝目を挙げた。成績次第で大関昇進の可能性がある関脇大の里（24）は若元春（30）を寄り倒して、9連勝で単独首位を守った。大関琴桜（26）は宇良（32）に押し出されて3敗に後退。全勝の大の里を関脇霧島（28）がただ一人1敗で追い、2敗で高安や若隆景（29）ら平幕の4人が追う。 つかず、離れず。自滅はしない。勝負ごとの酸いも甘いもかみわける34歳、元大関の高安が北勝富士との2敗同士の対戦を制した。 「おっつけられて、右のまわしが遠かった。なんとか（相手を）起こしてうまくさばけた」 すぐに左を差したが、相手の強烈な右おっつけに後退。右上手も切れた。土俵際で回り込みながら、右の喉輪で逆襲。相手との距離が開いたところを左へ体を開いて、はたき込んだ。 7月の名古屋場所初日に左大胸筋を部分断裂して2日目から途中休場。8月の夏巡業は全休した。番付も東前頭3枚目から同15枚目まで降下。高安が番付を10枚目以下に落とすのは令和2年名古屋場所（東前頭13枚目）以来4年ぶりだ。 「稽古をやれなかったし、巡業にも出られなかった。なんとか場所に間に合った感じだった」。現役2位の幕内在位79場所。経験値が相撲勘を呼び起こし、勝ち越しに王手もかけた。動きに切れを戻すため、場所前には体重を6キロ減らし、175キロに。「やはり動きがいいと思う」とこの日の逆転にも結びついた。 演歌歌手の杜このみ夫人（35）のカバーソングのアルバムが、場所前の8月28日に発売された。その日、高安は東京の下町にある大正元年創業の老舗レコード店にふらりと姿を見せた。このみ夫人がデビュー時の初キャンペーンで訪れた店で、高安は「たいへんお世話になっているので」とアルバムも購入した。 1月の初場所は腰痛で途中休場となったが、3月の春場所は11勝4敗の優勝次点。皆勤さえできれば結果を出せる実力者。悲願の初優勝へ。相撲の神様は、高安のさりげない〝内助の功〟と義理堅さをきっと見ている。（奥村展也）