内山が失神TKOでのV10に成功した「影」パンチ
フィジカルを担当しているトレーナーの土居進氏が言う。 「自己管理ができている内山さんは、もう大きな肉体のフレームはできているんです。細かい筋肉を鍛え、バランスを調整していく段階に入っているんですが。今回は下半身を重点的にやりました。片足に重心が乗ってしまった状態でも、攻防のパフォーマンスが落ちないようにと、肩足ずつ1本足で立って行うトレーニングを導入しました」 タイのムエタイ王者が「見えない」と嘆いたシャドーパンチを可能したのは、その鍛えられた下半身が生み出した素早いステップインだった。 渡辺会長が「スーパー王者の称号を受けた内山の強さを証明するためだったんだが、この試合を組んだことを後悔していた。なんでこんな相手を選んだのかと」と、振り返るほど、10度目の防衛戦の相手に選んだジョムトーンは、危険な挑戦者だった。一度は、内山からダウンを奪い、追い詰めた金子大樹(横浜光)を、この1月の東洋太平洋戦で判定で下しているが、39度の高熱を押しての最悪のコンディションで臨んだ試合だった。完調ならどうなるのか。ムエタイで100戦を超えるキャリアがあって、国際式に転向して10試合目。世界のリングでは、まったく無名で、内山が勝って得るメリットよりも、番狂わせを受けるリスクだけが高い。こういう相手を挑戦者に迎え受けるときにえてして、エアポケットのような敗戦が、大きな口をあけて待っているものなのだ。 だが、35歳・内山のモチベーションは、落ちていなかった。 「ジョムトーンが強いのはわかっていたんで。準備から本腰を入れていた。ハッキリとした形で勝たないとOPBFのチャンピオン相手にこんなものかと思われるでしょ。スーパーチャンプにもなった。一般に人は、さぞかし強いんだろうなと思ってくれていると思うんです。そのイメージを守りたかったし、KOで勝たないと評価は上がりませんから」 今年2月にWBAから9度防衛を評価されスーパー王座の認定を受けた。過去には、マニー・パッキャオを「世紀の一戦」で下したフロイド・メイウェザーら、そうそうたるメンバーが名を連ねる。その名誉は内山が大事にしているプロのプライドをくすぐった。