内山が失神TKOでのV10に成功した「影」パンチ
<WBA世界Sフェザー級タイトルマッチ/5月6日、大田区総合体育館> 王者・内山高志(35歳、ワタナベ)TKO2回1分15秒 3位・ジョムトーン・チューワッタナ(25歳、タイ) 明らかな体格差に加えてサウスポースタイル。 ムエタイの元2階級王者、ジョムトーンと対峙した内山は、左で探りを入れながら戸惑っているように見えた。だが、実際は「思ったよりも距離が近かった。お互いのパンチが当たる距離。ピリピリした気持ちだった」という。左ジャブから内山のフィニッシュブローである右ストレートが、その右目の頬あたりを一閃すると、タイ人は、ぐらつき下がって右目を瞑った。 「あの一発で目が見えなくなった」とは、試合後のジョムトーンの談。 その一撃は眼下底に深刻なダメージを与えた様子で内山は完全に主導権を握る。それでも「右目が見えなくなっているのはわかったが、まだ力が残っていたので深追いはしなかった」と様子をみながらフィニッシュには持ち込まなかった。2ラウンドに入ると、また左を見せてからの右ストレートが、右目やや下の頬付近を直撃した。キャンバスに沈んだタイ人は仰向けで大の字になったまま身動きをしなかった。レフェリーは、すぐにカウントを取るのをやめて倒れた挑戦者を気遣った。 2ラウンド1分15秒、衝撃の失神TKO勝利である。 「大晦日の試合は、(右手拳に不安があり)8割程度の力でしか打てなかったが、今回は練習の段階から思い切り打てていた。久しぶりに気持ちのいいパンチ。感触? 硬かった。骨を殴った感じかな。もっとじっくりと戦う作戦でいたんだけど、早い回で右が当たったからね」 医務室で右目に眼帯をあてた挑戦者は「パンチが強かったし見えなかった。作戦がどうのと考える前に先に右をもらったのがすべて」と、トレーナーに支えられて、控え室へ帰った。 実は、このワンツー、今回の防衛戦に備えて徹底して磨いてきた秘密兵器だった。 「左で相手の視界をさえぎるんです。相手は邪魔だからずらしてきますよね。そのずれの瞬間に右を打ち込む。そればっか練習してきたんです」 つまり左のパンチのシャドーに右を置いておく“シャドー(影)パンチ”である。内山のひとさし指と中指の2つの拳を矢のように突き出す独特のストレートは、接点が小さいため力が1点に集中して、とてつもない衝撃力を生みだす。だが、反面、拳を痛めるという強打者ゆえの宿命がある。今回は、その右手拳の慢性的な痛みが消えて完調になり、加えて下半身の徹底したトレーニングを行ったことで必殺のシャドーパンチを可能にしたのである。